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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第115回   伍の十四
 紫雲英はシリンダーに咒弾を装填する。
 そして、禍津邪妄に銃口を向け、ハンマーを起こした。
「晃朗在太元(こうろうざいたいげん)、霊宝符命(れいほうふめい)、太上老君勅命急急如律令。鬼魅纏身祓禳(きみてんしんふつじょう)符!」
 咒を唱えると、空間に、様々な咒字が浮かぶ。引き金を引き銃弾を吐き出すと、撃ち出された鈍色(にびいろ)の弾丸は銀の閃光を放ち、咒字を拾うように空間を縫った。完成した咒符は、まるで舌を出した一つ目の妖怪に似た形をしている。
 鬼魅纏身祓禳符。正式な名称は違うが、身に纏(まつ)わりつく邪気を祓う符だ。
 符が完成すると同時に、邪妄の背後から回り込み、咒弾が命中する。
 沢子をとらえていた赤黒い舌が、弾けるように消滅した。
「心さん……!」
 沢子救出を指示しようとしたが、全部言う前に、心が駆け寄り、沢子を抱き留めた。そして、そのままバックステップ、サイドステップを組み合わせて、離脱する。
 どうやら、それなりに判断力はあるらしい。もっとも、そのぐらいのことは、出来ないと、困るが。
 そう思いながら、再び、咒弾を装填する。
 銀の勾玉の時は、どういうわけか、一発ずつしか、銃弾が「現れない」。おそらく、紫雲英が未熟だからだろう、と、彼女自身も感じている。
 それが証拠に、邪気を祓う咒符の一撃を受けても、あの禍津邪妄は消滅していない。一発では、倒せなかったのだ。
「五帝神将(ごていしんしょう)、縛鬼伏邪(ばっきふくじゃ)、塞神招請(そくしんしょうせい)」
 次なる銃弾は、結界形成弾だ。これをやっておかないと、禍津邪妄が逃走する怖れがあるし、ムラマサがやってきて邪魔される怖れがある。
 そうなると、下手をすると、この禍津邪妄もディザイアに進化する怖れがある。それは絶対に防がねば!!
 禍津邪妄がディザイアに進化する、ということは、稀なことらしいが、絶対にないとは言い切れないそうだ。現に先日、禍津邪妄から進化したディザイアが出現した。
 結界が形作られる。辺り一面、青空だ。この結界がどの程度の時間、維持できるか、わからないし、貴織が作るものほど、強力ではない。貴織はおよそ二年ほど前、加入したという。紫雲英より、一年強、キャリアが長い。それだけの経験年数の違い、ということだろうか。あるいは、彼女の母方の祖母が、帝浄連のメンバーだったということだから、もともとの素養が違う、ということだろうか。
 それはともかく。
 今の結界で、ある意味で心を締め出してしまった格好になったが、どうせ、彼は戦力にならない。紫雲英は次なる銃弾を装填した。そして咒を唱えようとしたとき!


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