夕方。帝都文明亭から出ると、悲鳴が聞こえた。それこそ、絹を引き裂くっていうのがピッタリくるような悲鳴だ。 僕は悲鳴のした方へ、駆け出した。 この頃は、邪気の流れっていうか、異様な「何か」がどこにあるのか、漠然とだけど感じられるようになってきた。慣れてきたって事かな? その方へ行くと、そこは、裏路地。その入(はい)り口のところに、着物姿の一人の若い女性が倒れてる。 「大丈夫ですか!?」 抱き起こすと、弱々しい息を漏らしながら、一言。 「し、した……」 「した?」 そう言って、女性は気を失った。 なんだろう? 彼女を横たえ、立ち上がったとき、紫雲英ちゃんが来た。 「心さん!」 「ああ、紫雲英ちゃん!」 「あの角を曲がったところに、妙な気配があるッス! 多分、禍津邪妄ッス!」 近くにいた女性に、倒れた女性の介抱をお願いし、僕たちはその方へ行った。角を曲がったとき、また悲鳴がした。 見ると、十メートルぐらい先に、青黒い二メートルぐらいの高さの、太い柱みたいなモノがあって、その体(?)から、幅二、三十センチぐらいで長さ一、二メートルぐらいの、舌みたいな赤黒いものが、何枚も生えてて、一人の若い女性を絡め取り、文字通り、舐めている。 「うわあ……、気持ち悪い……」 呟いた僕の横で、紫雲英ちゃんが「外道ッス」と呟いた。だろうなあ、男の僕でも、見てて気持ち悪いもの。まして、絡め取られたら……。 その女性を見たとき。 白いブラウスみたいな服に、空色のスカートをはいてる。でも、そのスカート、プリーツスカートで、すっごいミニ。そして、そのスカートには黄色い格子模様が入っていた。 ……なんていうか、この時代らしくない。そして、その女性は。 「……沢子さん?」 なんで、沢子さんが、こんな格好を? 思わず、僕は紫雲英ちゃんを見た。 「なんで、あんな、大正時代らしくない格好、してるの?」 紫雲英ちゃんは、僕よりも、早く来たそうだから、何か、知ってるかも知れない。 すると、紫雲英ちゃんは、なぜか、僕から目を逸らし、困惑したような笑みを浮かべた。 「さ、さあ? 大正デモクラシーとか、モガとか、そういうのじゃ、ないッスかねえ?」 「……何、言ってんの? ていうか、僕、これまで何度かループ、体験しているけど、一度もそういうこと、なかったけど?」 「そんなことより! あいつ、倒すッスよ! 女の敵ッス!」 なんか、焦ってない、紫雲英ちゃん? その時、僕の目の前に、金色の勾玉が現れた。紫雲英ちゃんは銀色だ。 お互いが「ヨロイ」をまとったとき。 「心さん、あいつは、私が倒すッス」 「え? いいけど。なんで、いきなり、そんなこと言うの?」 銃を構え、紫雲英ちゃんは、言った。 「申し訳ないけど、私、『護世士』としての心さん、信頼してないんで」 不敵な笑み、って感じがしたけど、その目には、冷たい光があるように感じた。 ……。 確かに、僕は一度もディザイアとか、大淫婦、オルトロスを倒せてない。 僕は、なぜ、この力を手にしたんだろう。 いや。 なぜ僕に、この力が与えられてるんだろう?
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