「……今さら、帰ることなんか、できるか。恥をさらすようなものだ」 「誰も、そんなこと、思わないって!」 だが、村嶋は、そんな弟の言葉など、信じていないかのように、かぶりを振る。 「俺は、故郷(くに)を捨てたも同然なんだ。そんな俺が、今さら、帰るなんて……」 「兄さん。義姉さんも心配してる」 その言葉に、村嶋は将二を見る。 「今、義姉さんは、うちにいるんだ。石毛建設のことをニュースで知って、僕、すぐにここに来たけど、兄さんと連絡取れなくて、義姉さんたちが引っ越したって聞いて、それで義姉さんの実家ヘ行って、うちに来てもらった。寛子ちゃん、総助くんも、こっちにいる」 何を思うのか、村嶋は空を仰いだ。 「兄さん。僕が就職で家を離れて、あの街に行って、そこで離職して困っているとき、兄さん、力になってくれたよね? 今度は、僕が兄さんを助ける番だ。……いや、必ず助ける!」 村嶋が将二を見たとき、合崎が言った。 「村嶋さん、帰った方がいい。あなたには、帰る家がある」 「合崎さん……」 村嶋の視線を受け、合崎は微笑む。 「あなたは、一家の長なんだ。家族……多喜子さんたちを護らないと」 そう言って、村嶋の肩を叩く。 村嶋は、一瞬、泣きそうな顔になったが、それを隠すように、何度も何度も、合崎に頭を下げた。 将二の「自己破産しているか否か」という質問に答えながら、一緒に歩いて行く村嶋の背を見送る合崎の表情は、寂しそうに見えた。 礼子は、それをやりきれない思いで見ていた。
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