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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第110回   伍の九
 部屋に入り、捜査二課の二荒(ふたら)警部に声をかける。佐之尾を見て、二荒は、険しい表情になった。
 こいつ、半年前のこと、まだ根に持ってやがんな?
 そうは思ったが、おくびにも出さず、佐之尾は言った。
「よう、二荒さん。今いいか?」
 二荒は、壁掛け時計を見る。
 午前十一時十分。二荒が小さく舌打ちしたように見えた。おおかた「正午だったら、飯時を理由に断ろう」と思っていたのだろう。
 二荒が佐之尾を睨む。
「また、シマ荒らしに来たのか。一課ってえのは、ヒマなんだなあ」
 それには応えず、佐之尾はニヤついて言った。
「ちょっと聞きたいことがある。一つだけ、答えてくれ。先日、フリージャーナリストの津島って男が殺された。そいつ、どうやら、県議会議員の土原(つちはら)の秘書、和久(わく)やら、その周辺を探っていたらしい。土原っていやあ、この間、駅前再開発の権利を手にした、帝星建設と癒着してるって噂を聞いたことがある。あの噂は、本当か?」
 しばらくおいて、二荒が答えた。
「俺も一つだけ言ってやる。とっとと、出てけ」
 どうやら、半年前のことを、やはり根に持っているようだ。あの時の事件では、ある殺人事件の犯人を逮捕したが、その人物は、ある経済事件のグループの一員だった。仲間が逮捕されたことにより、そのグループは警戒し、動きがなくなった。そのため、二課は検挙するのに、随分、時間と手間をかけたらしい。
 だが、今の返事で充分だ。
「ありがとな」
 そう言って、佐之尾は部屋を出た。
 二課としては、土原議員の尻尾を掴んでから、殺人犯を捕まえろ、ということなのかも知れないが。
 冗談ではない。一刻も早く殺人犯を捕まえないと、殺人犯をのさばらせることになるし、第一、被害者が浮かばれない。そのご遺族の思いにも応えられない。
 詳しくはわからないが、駅前再開発の件で、土原議員と帝星建設は、癒着している。それについて、津島が動いていた。そして津島は、何か決定的なモノを掴んだ。だが、津島はその「何か」を手放すことを拒んだ。そのために殺害された。
「そんなところだろうなあ。それにしても」
 と、佐之尾は考える。
 この間から、やたらと帝星建設の名前が出てくる。今朝方、届いたメールを確認した限り、テイボウの邪魔をする「ムラマサ」なる存在は、帝星建設の関係者である可能性が高いという。
 そのムラマサを縁としてディザイアが生み出されているようだが、それにしても、これだけ集中して現れるというのは。
「帝星建設ってぇのは、業(ごう)が……」
 と言いかけて、佐之尾はやめた。
 ディザイアが生まれることを、「業が深い」の一言で片付けるべきではない。
 魔災の真の原因はわかってはいないが、その一つは、人々の抱く邪念が歪みとなることが、わかっている。
 婉曲な表現だが、人々が歪まなければ、魔災は起きないのではないか? しかし、ディザイアとなる人間のことを、「邪悪の元」「歪みの根源」と断ずることは、してはならない。
 どんな人間にも、自分の思いを大切にし、育んでいく権利がある。それが、なんらかの「力学」によって、歪められ、狂わされていく。
 すべての人間が、その「力学」にあらがえるわけではないのだ。
 だとしたら。
 テイボウの活動は、永遠に終わらない。


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