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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第104回   伍の三
 紫雲英が脱力したように、倒れ込んだ。
 何が起きたか、わからない。あのディザイアの固有能力だろうか?
 これまでのことから考えて、あのディザイアはストーカーあるいは、盗撮マニアだろう。古風な考えかも知れないが、写真を撮るということは、相手の姿を写し盗るということでもある。それにより、紫雲英の行動が抑えられた、ということかも知れない。これは、まずい。自分も同じ技を受けたら、動けなくなる怖れがある。そうなったら。
「……間違いなく、妊娠させられるわね……」
 冗談ではない。
 貴織はワンドを掲げ、呪文を唱えた。
「Na、Lonsa、Niiso(ナー、ロー・ノォ・サー、ニー・イィ・ソー)、MOON!」
「汝の力、去れ」の呪文で、貴織、紫雲英の前に、直径三メートルほどの円形の銀光が閃く。目目連の目が光を放つも、その銀の円盤によって、跳ね返された。
 またTOWERの力を放とうと思ったが、さっきのようなことは御免被りたい。このニオイ、慣れることはなく、未だに臭い。
 ならば。
「Balt、Napta、Tliob(バー・レイ・テイ、ナー・ペイ・ター、テイ・リー・オー・ベイ)、JUSTICE!」
「正義よ、剣で両断せよ」の呪文とともに、貴織から分離するようにして、剣を手にした有翼の女神が現れる。その女神を念でコントロールし、その剣を使い、目目連を斬り刻んだ。
 刃で切り払うごとに、あの臭い汁が飛び散るが、さっきよりはマシだ。
 数秒で、目目連は、白い粘液体の山と成り果てた。だが。
「……あら?」
 白い小山の中に、バレーボールほどの何かが二つほど、見えた。それには、黒くて丸い模様があり、まるで、目玉のようだ。その目玉のようなものが、濁った光を放つ。
 やがて、粘液が盛り上がり、目目連が再生していく。
「もしかして」
 ふと、あることに思い至り、貴織はワンドを紫雲英に向け、次の呪文を唱えた。
「Torzu(トー・ゾード・オォ)、REVERSE・DEATH!」
 ワンドから淡い桃色の光が溢れ出し、紫雲英を包む。
 二、三秒して、紫雲英がよろけながらも立ち上がった。
「助かったッスよ、貴織さん。全身から力が抜けて、まったく動けなくて」
「紫雲英ちゃん、端折って言うわね。おそらく、あいつの外側の目は、カメラのレンズみたいなもの、中に本物の目がある。多分、それが本体。それを潰さないと、やつは再生し続けると思うの!」
 この言葉で、紫雲英は察したようだ。
 再生した目目連の目が光を放つが、「MOON」の効力で、その力は、貴織たちの前で、消え去る。
 紫雲英は、銃を二つに折り曲げ、シリンダーそのものを外した。それを右の袂に入れ、別のシリンダーを取り出す。そのシリンダーは、クリアレッドだった。それをセットし、銃を構える。紫雲英がこちらを見て頷く。
 貴織は再び、女神をコントロールし、目目連を斬り刻んだ。悪臭を放つ、白濁した粘液の小山の上に、二つの目玉がある。
 それを確認した紫雲英が、銃に「氣」を通したのがわかる。紫雲英が銃を右の顔の高さに上げ、銃口を天に向けて構える。左手の平でクリアレッドのシリンダーを弾くように回転させながら、さらに「氣」を充填していく。シリンダーから、赤い光が溢れ始めた。その輝きが最高潮に達したと思しき時、紫雲英は銃を目玉に向けた。
「バントライン・ブロウ・アァァァァァップ!」
 紫雲英が昔好きだったという、アニメの、決め技のキーワードを叫んで、引き金を引く。
 銃口から、太く赤い光線が迸り、目玉に命中する。発声器官がないにもかかわらず、目玉が絶叫し、炎のような光に包まれて、消滅した。


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