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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第103回   伍の二
 貴織がカードを出す。
「Hom、C、E(ホーミー、カー、アイ)、MAGISIAN!」
 ワンドを手にし、次なる呪文を唱える。
「Zir、Tabaori、Adohi(ゾード・イィ・レイ、ター・バー・オー・リー、アー・ドー・ヒー)。WORLD!」
 貴織からエネルギーが噴き出し、同時に二人とディザイアの姿が、かき消すように見えなくなった。
 これで、ある意味で、この一角はここから隔離された。被害が外に及ぶことはない。
 気を失った沢子を抱え……ようと思ったが、ちょっと無理そうだったので、失礼とは思いながら、千紗は彼女を引きずっていった。

 左の袂から白縫(しらぬい)を出し、その中ほどを折る。右の袂からスピードローダーを出し、紫雲英は弾丸を一気に六発、装填した。
 とりあえず、一つの目をめがけて、撃った。
 湿った雑巾を木の床にたたきつけたような音がして、白濁した液体をぶちまけ、目が爆ぜた。
 なんとも言えない、悪臭が漂ってきた。
 思わず、息を止める。ふと見ると、貴織も眉をしかめている。
 このニオイの正体はわからないが、悪臭であることに変わりはない。今、目目連との間合いは、五メートルほど。
 もっと離れよう。
 それは、貴織も同じらしく、高速で後じさっている。
 十五、六メートルほど離れたところで、今度は目を避(よ)けて、撃つ。
 また、目が爆ぜた。
「紫雲英ちゃん!」
 貴織が抗議の声を上げる。
「……無理ッス。目玉だらけなんで、それ避けて弾(たま)、撃ち込むの、至難の業ッス……」
「じゃあ、一度、爆発した、目玉の『あと』に、弾丸、撃ち込んで! あのニオイ、間違いなく、妊娠しちゃうから!」
 貴織が何を言ってるかよくわからない。ニオイで妊娠するなど、無茶苦茶な話だが、それぐらい、凶悪なニオイということだろう。
 ならば。
 紫雲英は今度は少し集中し、引き金を引く。
 目玉が爆ぜた。
 同時に目目連が動いたせいだ。
 貴織が何か呪文を唱えた。「JUDGEMENT!」というワードが聞こえた。そして、なにかの呪文を唱えた後、「TOWER!」と唱えるのが耳に入った。
 天空から稲妻が落ち、目目連を撃つ。
 目目連が豪快に爆発し、白い粘液が大量にぶちまけられた。まるでバケツに溜めた粘液を、ぶっかけられたかのように、紫雲英と貴織は粘液まみれになった。
「貴織さん!!」
 悪臭で卒倒しそうになるのを、こらえ、紫雲英は抗議の声を上げた。
「だって!! 一撃で仕留めたくて!!」
 と、粘液まみれの貴織も叫ぶ。
 だが、目目連は倒れてはいない。残骸からまた汚泥のような黒いものが盛り上がり、再生した。
 再生したことに驚いたが、咄嗟に照準を合わせ、引き金を引いた。
 目玉の一つが爆ぜたが、その他の目玉が一斉に紫雲英を見る。まるで、カメラのフラッシュのような光が閃いたと思った瞬間、紫雲英の体から力が抜けた。


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