だが、もう遅い。理由はどうあれ、今となっては、自分は殺人の隠蔽に手を貸してしまっている。 悔やんでも悔やみきれない。 しばらく、ボウとしたあと、意識を集中する。はたして、計画にミスはないか? いうなれば、急場で作り上げた隠蔽計画だ。時間・スケジュールの前後関係や、直前までに関わっていた人物との辻褄合わせなどは、一切、考慮できない。とにかく、「自分たちが関わっていない」ということを証明することだけに、意識を集中しよう。 そう思っているとき、ふと、駐車場を見る。防犯灯に照らされている駐車場には、奈帆の愛車しか停まっていない。だが。 違和感がある。何だろうと思って、注意したとき。 違和感の正体がわかった。防犯灯に照らされている愛車の、後部ドア、こちらからは直接視認できない、反対側のドアが開いているのだ! 明らかに、車内のルームライトが点灯しているのがわかる。 まさか、誰かがドアを開けたのか? 一瞬、車上荒らしでもいて、中の死体を見られたのではないかと思ったが、そういう気配はない。 ちゃんと施錠したはず、と思いながら、車に駆け寄る。死体がなかった。慌てて、辺りを見回す。 ふと、柳の木が並ぶ遊歩道に、それらしい、背中が見えた。うずくまっているように見える。 もしかしたら、死んでいなかったのか? 仮死状態になっていて、タオルケットでくるまれた際に、息苦しさや熱がこもるなどして、息を吹き返したのだろうか? だとしたら、殺人には、ならないかも知れない。 一瞬、安堵の気持ちが湧いたが、すぐに消え去った。佐溝は晴幸の横領のことを知っているばかりか、殺人未遂のことも知っている。このまま放っておいたら、それらが明らかになるばかりか、逮捕された晴幸の口から、奈帆が隠蔽工作に関わったことも知られる。 そこまで思い至った時、奈帆は走り寄っていた。 クズかごに手をかけている佐溝が、こちらを向いた。目の焦点が合わないようだし、瀕死のようだ。放っておけば、いずれ死ぬだろうが、ここに放置しておくわけにはいかない。佐溝は、十時に、海水浴場にいなければならないのだ。 佐溝が、口を開く。声にはならなかったが、口の動きは「奈帆、貴様……」という恨み言を言ったように思えて(あとから思うと、それはその時の思い込みだったようだが)、奈帆は発作的に、佐溝の頭を掴み、コンクリートの地面に叩きつけた。おそらく、二度三度。もしかしたらそれよりも多かったかも知れないが、佐溝は動かなくなった。 そこから奈帆は、佐溝の死体を引きずった。「火事場の馬鹿力」というものを聞いたことがあるが、奈帆は、自分にこれほどの膂力があるとは、思ってもいなかった。 海水浴場へ行き、人がいないことを確認し、佐溝の死体を放置。台車の轍を消しながら、歩き、車へ戻った。 大きく息を吐き、マスクを外し、帽子を脱ぐ。しばらく深呼吸をし、助手席の髪留めを取ろうとして……。 「……え?」
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