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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第99回   狼と七匹の子山羊の物語。8
 剣を右手にしたグレーテルの左胸に、ダガーの刃が呑み込まれていました。
「……う、……う、そ……」
 震えながら、グレーテルが自分の胸を見ます。彼女には、コレがどう見えているのでしょう。ゆっくりと刃(やいば)を抜くと、ダガーの刃はベットリと血に濡れていました。グレーテルがすかさず左手で傷口を覆いましたが、その手指の隙間から、血が溢れてきます。
 そして。
 ゆっくり膝をつき、グレーテルはうつぶせに倒れました。かすかに動いていますが、この分では、戦闘など、無理でしょう。
 ヴォルフリンデはカイを見ます。そして、ゆっくりと歩み寄ったとき、なにかの気配を感じたので、その方に蹴りを放ちました。床の穴の横に立っていたマリーが、のけぞってかわします。踏み込んだヴォルフリンデは、ダガーを胸に刺そうとして、マリーが胸をガードする仕草を見てとりました。なので、いったん身をひねって軸線をズラし、マリーの頸(けい)動脈を狙いました。
 身体の軸線がぶれたせいで、ダガーの切っ先だけがマリーの首をかすめましたが。
「ヒグッ!?」
 引きつったような声を上げ、マリーが首を押さえます。その手指の間から血が溢れ……。
 そのまま尻餅をつき、仰向けに倒れて、動かなくなりました。
「さて、と」
 と、ヴォルフリンデはカイを見ます。カイも格闘技能は持っていますが、それは一般人より、少し優れている程度。彼女の職掌(しょくしょう)分野は情報解析なのです。
「ゲルダとジェニファーはどこ? あと、ジャックとかいうヤツと、ヘンゼルとかいうヤツは? それから、組織から何か、持ち逃げしたみたいだけど、それは何? どこにあるの?」
 己の力量を悟っていると思しきカイは、ダガーから目を逸らさず、言いました。
「四人は今、森の外に、買い出しに出てるわ。持ち逃げしたものは……」
 と、背後の壁、いえ、壁に偽装した扉を見ます。おそらくその先に隠し部屋でもあって、そこに隠してあるのでしょう。
「ねえ、ものは相談だけど」
「何?」
 カイが値踏みするようにヴォルフリンデを見ます。
「あなたが、お金が大好物、っていうのは、知ってるわ」
「そうよ。さすが情報分析屋ね」
「『それ』を使って、組織を脅さない? うまくいけば……」
「いやよ」
 間髪入れず、ヴォルフリンデは答えます。
「そんなことをしたって、組織に敵うわけないもの。そんなことするぐらいなら、ここでその『もの』を手に入れて、出世した方がいいわ」
 鼻で嗤ってやると、カイが呻きます。そして。
「わかった。案内する。だから、命だけは……」
 その言葉を聞き、優越感に身を浸しながら、ヴォルフリンデは言いました。
「考えておいてあげる」
 バリエンの変態の金持ちどもに体を売って、体に傷をつけさせたのが、無駄にはならなかったと思いながら、ヴォルフリンデはカイの後に続きました。


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