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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第98回   狼と七匹の子山羊の物語。7
 ヴォルフリンデを見て、カイが表情を強ばらせました。ですが。
「大丈夫よ、カイ。彼女、粛清者(エンフォーサー)にやられて、傷だらけだし、両手も怪我してるし。それに、組織を抜けてきたんですって」
 グレーテルはそう言いましたが、ダガーを取り落とし、カイが言いました。
「グレーテル、その女は、間違っても組織を裏切るようなことはしないわ! それに、そいつは手を怪我してたって関係ない! だって、ヤツは、カポエラ使いだもの!」
 カイが全て言い終わる前に、ヴォルフリンデは回し蹴りをグレーテルに見舞います。しかし、頭部直撃とはならず、腕でガードされてしまいました。続けざまに、蹴りを繰り出し、グレーテルを部屋の奥まで追いやります。ただ、その動き……正確には、頭部を狙ったときのガードの反応速度が、異常に早いのが気になります。まるで「ヴォルフリンデがカポエラを使う」のを知っていたかのような挙動です。
「……なわけないわね。とすると、驚異的な動体視力と反応速度、か」
 ゆっくり歩み寄ります。今、グレーテルの手にも、カイの手にも武器はありません。ダガーも床に取り落としたままです。一気に踏み込んだとき、二人が背にした扉を開け、隣の部屋に逃げ込み、扉を閉めました。
 すかさずヴォルフリンデも戸を開けましたが。
「……そう、なるほどね」
 呟き、床に落ちていたダガーを拾います。
 続きの部屋の奥で二人が身構える中、ヴォルフリンデは、
「一本目」
 と言いながら、目の前をダガーで薙ぎます。
 目の前をボウガンの矢が走って行きました。
 カイとグレーテルが驚いたように目を見開きます。
「二本目」
 そう言いながら、今度は、そこから二歩進んだ先の足もとの空間を薙ぎます。
 天上から、鉄串を埋め込んだ板が落ちてきました。
「三本目」
 半ば愉快な気持ちになりながら、落ちてきた板を踏みつけ、足もとの空間を薙ぎました。
 何かが外れる音がして、さらに先の床板が開きました。人ひとりの上半身が、余裕ではまりそうなほどの広さです。そこには、尖った方を上にした鉄串が数本。
 震える声で、カイが言いました。
「ど、どうして……?」
 おかしくてたまりません。なので、吹き出してから、ヴォルフリンデは言いました。
「光の加減で、見えたわ、『糸』が! トラップメイカーがいるって聞いてたから、罠だってすぐにわかった!」
 グレーテルが緊張をみなぎらせた表情で、ヴォルフリンデを睨みます。おそらくこのトラップで仕留められる、と思って、この部屋に誘導したのでしょう。
「残念だったわねえ。トラップワークのエキスパートがいるっていう情報を、手に入れていた私の勝・ち・よ」
 そして笑ってやります。ふと、グレーテルの視線が動きました。それを追うと、そこには、ツヴァイハンダー。
「させないわ!」
 床に開いた穴を飛び越え、蹴りを放ちます。それをかわしながらも、身をひねって、グレーテルはツヴァイハンダーを手に取ります。そしてグレーテルが大剣を構えた瞬間。
「……遅いわ」


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