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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第94回   狼と七匹の子山羊の物語。3
 マリーが行ったのは、コミューンの集落から、さらに外れて森の奥に入ったところでした。そこにあるのは、切り立った崖を背にした、一軒の、大きめの小屋。ちょっとした集会所といった感じです。
「修道士たちの、修行(しゅぎょう)場(ば)といったところかしら?」
 マリーの後をつけて、その建物を見たヴォルフリンデは、ふと思いました。ひょっとすると、このコミューン自体が、もともと修道士たちの、森での修行をする際の仮(かり)初(そ)めの教会だったのかも知れません。その跡地を、有効活用しているのかも知れない。
 扉をノックして小屋に入ったマリーは、しばらくして、出てきました。時間的には、四半刻も経ってはいないでしょう。その時、チラとですが、一人の少女の姿が見えました。
「……カイだわ」
 マリーをやり過ごし、ヴォルフリンデは小屋に近づきます。周囲を回ってみましたが、木製の窓は閉まっていて、中がうかがえません。小屋の背後は崖と接しているので、裏から侵入ということも出来そうにありません。
 周囲を見廻りながら、ヴォルフリンデは十数日前のことを思い出していました。

「ヴォルフリンデくん、君にミッションを伝えよう。ゆゆしきことだが、組織を抜けた者がいる。その者たちを見つけ、押さえて欲しい。場合によっては、相手の腕の一本ぐらい、持っていっても構わない。私の責任において、許可する」
 彼女がメッセンジャーから請け負う任務の多くは、何者かの「護衛」。その任務の遂行上、邪魔する者を始末する技能も鍛えています。
「わかりました。……今、『者たち』と言いましたね? 複数人ですか?」
 頷き、メッセンジャーは言いました。
「ジェニファー、ゲルダ、カイの三名だ。彼女たちは行動をともにしている可能性がある」
「あの三人ですか……」
「顔は知っているか? 知らなければ、似顔絵を……」
「大丈夫です」
 と、ヴォルフリンデは、やや誇らしげに答えました。
「カイは、一度、彼女が本部へ向かう途中で、密かに護衛をしました。ゲルダも、一度、彼女が調査対象を探索し、調査対象者を守る、という任務の時に、私も密かに護衛の任について彼女の顔を見ていますし、ジェニファーも一度、偽造した物品を取引する際、取引相手がヤバい相手だったことがあって、密かに護衛しましたから、顔は知っています」
「そうか」
 あの時の任務を伝えてきたメッセンジャーは、女でした。
「ならば、話は早い。だが、気をつけて欲しい。彼女たちには、他に最低でも二人、……いや、三人ほど、仲間がいるらしい」
「仲間?」
 奇妙な単語でした。組織を抜けた者に協力する者がいるなど、考えられません。確かに、時折、組織を抜ける者の話は聞きます。ですが、たいてい粛清者(グリム)によって始末されている、という噂を聞きますし、逃げおおせた者が、徒党を組んでいるという話も、これまでは聞いたことがありません。
「ああ」
 とメッセンジャーは珍しく、苦々しげな顔をして言いました。


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