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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第90回   雪の女王の物語。11
 その時!
 右手の壁が轟音とともに粉砕されました。何事かと、そちらを見ると、白煙を突き抜けて、一つの影が粛清者に迫ります。その影はツヴァイハンダーを持っており、それを粛清者に振り下ろしました。
 それをかわし、バックステップを踏むと、粛清者が言いました。
「貴様は、あの時の!?」
 どうやら、娘のことを知っているようです。
 乱入者(若い娘でした)は、構わず、粛清者に大剣を振るいます。それをかわしながらも攻める隙をうかがっている粛清者ですが、娘の剣に阻まれて、近寄れないようです。
 そして、指笛が聞こえました。それと同時に娘が身をかがめます。壊れた壁を通って、何かが娘の上を走り、粛清者に命中しました。
 豪快に爆発が起こり、粛清者はふっとんで、壁をぶち破り、そのまま、外へ転げ出ました。
 それを確認し、娘が駆け出します。カイもそのあとを追います。といっても、家の外には出ませんが。
 外では娘が大剣で粛清者に斬りかかっています。先ほどの擲弾(グレネード)がダメージになっているようですが、それでも粛清者は娘の大剣をかわし、攻め込みます。しかし娘も、粛清者の攻撃をひねってかわします。剣と鎧がぶつかるときだけでなく、触れるか否かというタイミングでも、青い火花が散っています。目に見えるほどの「闘気」ということでしょうか?
「……? なんで、身をひねってかわしてばかりで、剣で、粛清者(アンデルセン)の攻撃を受けないのかしら?」
 不思議でした。いくら鎧を着ているとはいえ、ツヴァイハンダーで受ければ、それなりに粛清者にも打撃になるはず。まるで、「粛清者の鎧に触れないようにしている」あるいは「剣を掴まれないようにしている」かのようです。
 しばらくおいて、粛清者が、近くの木々の中へ逃げ込みました。撤退したか、と思いましたが、油断は出来ません。娘は、深追いは危険、と判断したのでしょう、後を追うことはせず、ただ、周囲の気配を探っているようです。
 ややあって、あの「音」がしました。この家の周囲には、小枝を複数本、立体的に組んだものを、落ち葉や土を被せて、敷き詰めてあるのです。それにより、普通に小枝を踏みしめた時より、小枝の折れる音が際立つのです。
「左よ!」
 音のする方を掴み、カイは叫びました。反射的に娘が左手に向かって大剣を振るいます。それを避けた粛清者は、再び、林の中に消えました。
 娘が、また、剣を構えて、気配を探るような体勢になります。
 カイも、耳をそばだてました。ですがそれらしい音はしません。もしかしたら、今度こそ撤退したのかも知れませんが、「アレ」をカイが持っている以上、そして、ここで逃せば、また行方をつかめなくなるかも、という判断をしたなら、どこかに隠れて攻撃の隙をうかがっているはずです。
 不意に、娘が中腰になりました。そして、大剣の切っ先を天に向けて突き立て、鍔(つば)を自分の目線に持ってきます。
 何をしているのだろう、と思っていたら。
 しばらくして、大剣の切っ先に青い電光が走りました。娘は一瞬だけ顔を歪めましたが、さらに身を沈め、体をひねり、リカッソ(鍔(つば)の先にある刃になっていない部分です)に左手を当てると、右手を支点にして左手でツヴァイハンダーを押し出しました。
 金属音が響き、粛清者が地に叩きつけられました。どうやら粛清者は、木の枝に跳び上がっていたようです。鎧兜をまとっていながら、恐るべき跳躍力です。もしかすると彼は、宙に浮く能力さえ、持っているのかも知れません。
「……そうか、剣を避雷針にしたのね?」
 カイは気づきました。剣先に走った青い電光、あれは静電気だったのです。娘は剣を避雷針にすることで電気が迫るのを察知し、剣を振るったのです。
「ということは、粛清者(アンデルセン)の体からは、電気が出てる。剣が触れてないのに散っていた青い火花は電気、ゲルダが動けなかったのも、電気のせいか」
 よろよろと立ち上がった粛清者めがけて、何かが飛んできて、爆発します。また擲弾(グレネード)のようです。
 その時、扉が開いて、誰かが飛び込んできました。
「カイ、ゲルダ、早く逃げるッス!」
「! ジェニファー!? あなた、どうしてここに!?」
 飛び込んできたのは、カイと同じくエーケンダール自治領に常駐しているエージェント、「指姫」ジェニファーでした。
「話はあと! 早く!」
 ジェニファーは、どうにか動けるようになったゲルダに肩を貸し、駆け出しました。カイも後を追います。
 粛清者が追ってくる気配はありませんでした。


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