それは、体のラインと同じ形の、黒くて薄い鎧兜を纏った人物。 カイは直感的に「粛清者(エンフォーサー)」だと思いました。それはゲルダも同じようです。表情に衝撃が走るのが分かりました。 「見つけたぞ、カイ」 ゲルダが厳しい表情になります。 「その声は……! そうか、あんたが粛清者(アンデルセン)だったのか……!」 身構えるゲルダに構わず、粛清者がカイに向かってきます。 「させるかよッ!」 言うが早いか、ゲルダが身を翻し、一瞬、粛清者の視界から外れました。そして背後から襲うと見せかけて、再び身をひねり、粛清者の足もとを刈ろうとして。 「こざかしい」 完全にゲルダの動きを見切っていたような挙動で、粛清者がゲルダの脚を踏みつけました。苦鳴を上げるゲルダの腕を掴み、立たせます。いかなることか、「腕をつかまれる」、ただそれだけなのに、ゲルダが苦悶の表情を浮かべて、体を硬直させています。 噂に、粛清者は徹底して、殺人術を磨いているといいます。おそらくなんらかの特殊な技術を心得ているのかも知れません。ひょっとすると魔法かも知れないとさえ、カイは思いました。なにせ、組織のトップ、アレッサンドロ枢機卿は、悪魔信奉者(サタニスト)なのですから。 「ゲルダ、引っ込んでいろ」 そう言って、粛清者はゲルダを、カイの背後の壁に投げつけます。悲鳴を上げて、ゲルダがうずくまります。彼女は立とうとしていますが、体の痛みのせいか、思うように動けない様子。 「カイ、お前が持ち出した『モノ』は、どこにある?」 粛清者の問いに、カイは思わず自分の胸を押さえ、「しまった」と思いました。 「そこか」 粛清者が歩み寄ります。カイは恐怖に身が縮みました。戦闘術、いえ殺し合いでは、粛清者に敵いそうもありません。かといって、逃げ道もありません。隠し扉は、運悪くゲルダの体で塞がれていました。 カイは観念しました。
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