「その者の家族を、皆殺しにするの、私やあなたが、そうだったように!」 ゲルダが、目を見開きました。わずかに、唇が震えています。 「その手口まで書いてあったわ。残念ながら私たちの頃の資料は見つからなかったけど、それによると、なんらかの技能で突出したものを見せると、調査が入るの。そして、行動、家族関係が調べ上げられ、その者が孤立するように、そして頼るもの・すがるものをなくすように仕向けて、組織に拉致してくるのよ」 ゲルダが頭を抱え、うつむきます。 「そ、そんな……」 「そうじゃないケースもあるみたいだけど、詳しくは調べられなかった。……私たちは、知らず知らずのうちに、私たちと同じ境遇の子どもたちを、量産していたのよ」 ゲルダが震えながら、カイを見ます。 「オレたちは、何のために……?」 カイは黙って、首を横に振ります。 「組織のため、いずれは、自分がいい位置(ポジション)につくため。そう思いながら、結局は、不幸をまき散らしていたの」 ゲルダの両目から大粒の涙が流れ落ちました。胸が痛みながらも、カイは言いました。 「それだけじゃないの。アレッサンドロ枢機卿は……。……悪魔信奉者(サタニスト)よ」 ゲルダが引きつったように息を呑みました。 「だから、私は、組織を抜ける決意をした。……ここへ来たのは、単なる感傷だったかも知れない。……ごめん、本当はよくわからない」 ゲルダが嗚咽を始めました。その胸に去来する思いは、とても言い表せないでしょう。カイも未だ、整理がついていないのです。もし自分が、突出した能力を見せなかったら、今でも家族と幸せに暮らせていたかも知れない。そう思いながらも、どこかで、あのまま人知れずひっそり暮らしているより、自分の技能を磨くことが出来て充実した日々を送れた、と思っているのもまた、事実なのですから。 どうにか二人で気持ちの整理をつけねば、と思ったときでした。 あの「音」がしました。 「ゲルダ!」 と、小声で言いました。 「誰か来るわ! 早くこっちへ!」 と、隠し扉へと向かったのですが、それより早く、扉が開け放たれ、一つの影が入ってきました。
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