「ここは、昔、住んでいた家。父さんが近くの川から水を引いて、石を敷きつめて池を作ったから、水はあるし、その川から魚も紛れてくる。その池からさらに水を引いて、水路を通して作った畑に、母さんが色んな種類の野菜を植えてて、今もそれが残ってる。だから、食べるには困らないわ」 近くの野草の葉を煮出して作ったハーブティーを出しながら、カイはゲルダに話しました。 しばらく話を聞きながら、お茶を飲んでいたゲルダですが、ふと思い詰めたような表情になって言いました。 「なあ、なんで、組織を裏切ったんだ?」 カイの体が強ばります。言っていいものかどうか。 もし言えば、ゲルダの性格から考えて、彼女も組織から離反すると言い出しかねません。そうなると、彼女も粛清対照になります。 ゲルダの目を見ます。そこには真剣な光がありました。 どうやら、ゲルダは真剣にカイのことを案じているようです。 「ゲルダ。それ聞いちゃうと、あなたも戻れなくなるけど、いい?」 ややおいて。 ゲルダはしっかりと頷きました。 それを確認し、カイは言いました。 「私が、本部で情報収集しているときに、ある『情報』に引っかかりを覚えたの」 「引っかかり?」 「ええ。……組織のトップにアレッサンドロ枢機卿がいるのは、あなたもうすうす感づいていると思うけど」 そう言うと、ちょっとだけうろたえたように、ゲルダは言いました。 「え? ああ、いや、そこまでは。ただ、漠然と『アレッサンドロ枢機卿絡みの人間の、調査・捜索が多いなあ』とは思ってたが」 そうか、そこまでは思い至らなかったか。そんなことを思って、知らないのなら彼女を深淵(ふかみ)に引きずり込むべきではなかったと、少し苦い思いと後悔を感じながら、それでもカイは続けました。 「いくつかの資料の中に、『エージェント候補』というカテゴリがあったわ。要は、組織の『駒(コマ)』を調達する、っていうこと。その人物が、アレッサンドロ枢機卿、及び、そのライバルにとって、どういう位置に『いるか』、あるいは『いたか』を調べる必要があるみたい。それでね? もし、その人物が使えるとなった時、そのスカウトの方法だけど……」 ここで、カイはお茶を一口、含みました。ここから先を言うのに、ためらいがあります。 しかし、意を決して口を開きました。言わねばならないのです、自分がなぜ組織を離れる決意をしたかを!
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