20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第86回   雪の女王の物語。7
 カイがいるのは、小さい頃に家族と暮らしていた家でした。小さい頃の記憶なので、定かではありませんが、カイたちは、もとはどこか広い、平原のようなところで暮らしていたように思います。しかし、何か大事件があって、そこを離れ、この山に来た、そんな記憶があります。
 理由は分かりませんが、カイたちは、ここで人目を避けて暮らしていました。この家は、もとからあった山小屋で、住んでいる人はいないようでした。
 父や母からは「怖い人が来るから」とか「怖いお化けが来るから」と言われていました。幼心に、カイもそれを怖く思い、どうにかお化けが来ることを予測できないか、子どもながらに、さまざまな予兆などを分析するようになりました。
 あるとき、山に入って近道を行こうとした旅人に「何か腐ったニオイがするから、その斜面は崩れる。違う道を行った方がいい」とアドバイスしたら、本当に斜面が崩れてきて、旅人に感謝されたことがありました。そして、十数日後、あの悲劇が起きたのです。
「!? 誰か来る!?」
 ある「音」を聞いたカイは、素早く裏手に回り、隠し扉を開け、中に隠れました。しばらくして、外で声がしました。女性の声で「ここでいい」とか「有り難う」という声が聞こえた後、叩扉(ノック)されました。
『オレだ、カイ。いるか?』
「……ゲルダ?」
 エージェント仲間、ゲルダの声です。思わず扉に駆け寄ろうとして。
「……なぜ、彼女がここに来たの?」
 彼女の「能力」を考えれば、彼女がカイの居場所を突き止めても、なんら不思議はありません。問題は、なぜ、彼女がカイを探しに来たか、です。
 考えられることは一つ。
「私を粛清(しまつ)するために、居場所を捜させたのね、ゲルダに……!」
 体に緊張が走ります。どうやら、このままここから去った方が良さそうでした。そして、静かに裏手の隠し通路へ行こうとして。
『カイ、オレ一人だ。話がしたい。信じてくれ』
 その声には、偽らざる響きがありました。
 しばし、ためらいがあったものの、カイは自分の直感とゲルダを信じて、扉を開けました。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 11081