カイがいるのは、小さい頃に家族と暮らしていた家でした。小さい頃の記憶なので、定かではありませんが、カイたちは、もとはどこか広い、平原のようなところで暮らしていたように思います。しかし、何か大事件があって、そこを離れ、この山に来た、そんな記憶があります。 理由は分かりませんが、カイたちは、ここで人目を避けて暮らしていました。この家は、もとからあった山小屋で、住んでいる人はいないようでした。 父や母からは「怖い人が来るから」とか「怖いお化けが来るから」と言われていました。幼心に、カイもそれを怖く思い、どうにかお化けが来ることを予測できないか、子どもながらに、さまざまな予兆などを分析するようになりました。 あるとき、山に入って近道を行こうとした旅人に「何か腐ったニオイがするから、その斜面は崩れる。違う道を行った方がいい」とアドバイスしたら、本当に斜面が崩れてきて、旅人に感謝されたことがありました。そして、十数日後、あの悲劇が起きたのです。 「!? 誰か来る!?」 ある「音」を聞いたカイは、素早く裏手に回り、隠し扉を開け、中に隠れました。しばらくして、外で声がしました。女性の声で「ここでいい」とか「有り難う」という声が聞こえた後、叩扉(ノック)されました。 『オレだ、カイ。いるか?』 「……ゲルダ?」 エージェント仲間、ゲルダの声です。思わず扉に駆け寄ろうとして。 「……なぜ、彼女がここに来たの?」 彼女の「能力」を考えれば、彼女がカイの居場所を突き止めても、なんら不思議はありません。問題は、なぜ、彼女がカイを探しに来たか、です。 考えられることは一つ。 「私を粛清(しまつ)するために、居場所を捜させたのね、ゲルダに……!」 体に緊張が走ります。どうやら、このままここから去った方が良さそうでした。そして、静かに裏手の隠し通路へ行こうとして。 『カイ、オレ一人だ。話がしたい。信じてくれ』 その声には、偽らざる響きがありました。 しばし、ためらいがあったものの、カイは自分の直感とゲルダを信じて、扉を開けました。
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