「君も知っての通り、それぞれのエージェントは、総合的に技能を磨いているが、得意とする『分野』というものもある。うかつに複数種のミッションを抱えると、得意分野のミッションも失敗するかも知れん。だが、今回は二つとも君の得意分野だ」 「そうか。では、一体、誰を『探せ』ば?」 見当はつきます。一人はジェニファーでしょう。 「ジェニファーと……。カイだ」 「カイ!?」 再び、衝撃が走りました。一瞬、呼吸が止まっていたかも知れません。 「カ、カイが、どうして……!?」 「彼女も、組織を裏切った」 頭の中が、クラクラします。まともに立っていることができません。思わず、へたり込んでしまいました。 目まいと混乱が止まぬのを、知ってか知らずか、男は言います。 「彼女は、先月、組織本部に戻り、情報分析をしていた。そして、姿を消したそうだ」 「……ど、どうし、て……?」 やっとの思いで、その言葉を喉から絞り出すと、男は、首をゆっくりと横に振ります。 「知らぬ。私にそれを知る権限はない」 直感的に「嘘だ」と思いました。この男・メッセンジャーは、組織からのミッションを伝える、という役目上、かなり「上」にいる者と、繋がっているはずなのです。もちろん、組織の「上」で各情報を整理した上で、メッセンジャーには、必要最低限しか伝えていない可能性もあります。カイのエージェントとしての任務も、各地で収拾された情報を分析するもの。そこで整理・分析された情報を元に、「上」がメッセンジャーに伝えている、ということも有り得ます。 しかし。 いつもゲルダにミッションを伝えているのは、この男です。それにジェニファーやカイにミッションを伝えているのも、この男。 ゲルダでさえ、気づいているのです、請け負った任務の三分の二近くは「特定の枢機卿(すうききょう)と利害関係にある人物」の調査任務だったことに。まして、この男は、ミッションを伝える側。そのことに、そして、さらに奥にあるものに気づかない、いえ、「それ」を知らないはずはありません。 疑わしそうな目になっていたことに気づき、あわてて取り繕うようにゲルダは言いました。 「カイは、確か、エーケンに常駐していたはず。そこは調べたのか?」 「ああ。調査員が赴いて調査したが、戻った形跡はなかったそうだ。おそらく、本部から、直接どこかへ姿をくらませたものと思われる」 そして、メッセンジャーは、いつものように事務的に言いました。 「必ず彼女たちを見つけ出すように。見つけたなら、動きを封じておけ。いろいろと確認せねばならぬ事がある。殺すことは禁じる」 そして、男は去って行きました。
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