早朝、組織が手配した馬を飛ばしながら、ゲルダはミッションを思い出していました。
「ゲルダくん。辺境にあるエーケンは知っているね?」 メッセンジャーである、若い男の言葉に頷き、ゲルダは答えました。 「ああ、知ってるぜ」 彼女は、物心ついた頃から、このような物言いをする人間に囲まれて育ったので、これが普通のしゃべり方だと思っていました。小さい頃に身についた習慣は、なかなか抜けないものです。 「辺境とはいっても、その北にある、四方を山に囲まれたストランドとは、全く違う。国(くに)境(ざかい)、まさに国境(こっきょう)防衛(ぼうえい)の要(かなめ)だ。だから、かなり発展した大都市だって聞いてる。そこを治めるエーケンダール伯カールは、豪放磊落(ごうほうらいらく)な上、気さく。およそ貴族らしくない、とも」 エーケンダール家は、この国の建国戦争の折、たいへんな武功を上げた騎士の子孫だといいます。一時(いちじ)は王族と姻戚関係を結び、公爵にまで上りましたが、この国が、まだ選帝(せんてい)会議(かいぎ)によって次期国王を選んでいた時代に、政争に敗れ、新国王によって、爵位を落とされ、さらに辺境伯として、封じられたとか。その頃に、この国の王位が世襲制になったそうですが、それは余談。 それはともかくも、この一件から、エーケンダール家は、王家に対して遺恨を抱いている、という噂がありました。 「うむ。エーケンダール伯のことは、関係がない。問題は……」 と、男の目が珍しく険しいものになりました。 「そこに常駐していた、ジェニファーが出奔(しゅっぽん)した」 ゲルダの胸に衝撃が生まれます。いうなれば、組織への裏切り、粛清されて当然です。 「どうやら、何者かによって、手助けされているらしい」 そう言った男の瞳にも、言葉にも、悔しさが乗っているように思えます。 「手助けとは?」 奇妙な言葉に、動揺を抑えつつ、ゲルダは問いました。 「今のところ、わからない。そこで、君にミッションを伝える。ミッションは二つ」 「二つ? それはある意味、『ルール違反』のはず。一体、どういうことだ?」 初めてのことです。たいていは、一つのみ。それは「専念」ということが一番の理由ですが、 もう一つありました。それは……。
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