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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第8回   ヘンゼルとグレーテルの物語。4
 確かに食事は保障されました。柔らかいパンに、四足獣のステーキ、味付けのための岩塩に、サラダ、具の多いスープにオレンジ、レモン、新鮮な水。家にいるときより、よっぽど豪華な食事でしたが、それは「商品の品質」を落とさないための「管理」でもあるのです。
 やがて、十日ほど経ちました。
 老婆が、いつものように、イヤらしい笑い声を立てて言いました。
「今日にでも『お迎え』が来るよ。さあ、この服に、着替えるんだ」
 そう言って差し出したのは、ヘンゼルには肩当てと胸当て、グレーテルには、南方の性奴が着るような淫らな服。
 老婆が、それを牢屋の前に置いたときです。
 ヘンゼルは鉄格子の一本の根元を、力一杯蹴りました。容易に砕けたのを確認し、その勢いのまま、その一本をへし折って引き抜きました。
 驚いている老婆の胸に、ヘンゼルは引き抜いた鉄格子を、槍の如く、突き刺しました。
 伝説のモンスターのような絶叫とともに、老婆がくずおれます。
「ど、どうやって、檻(オリ)を……」
 血を吐きながら言った老婆の言葉に、ヘンゼルが答えます。
「あんたがくれたレモンを搾って、それと水と岩塩とを、鉄格子の根元やらに塗ったんだ。腐食が進んで、古くなってた鉄棒が、へし折れたってわけさ」
 その言葉の意味が脳に染み入るより早かったのでしょう、老婆が首を傾げた直後に、再び、絶叫しました。見ると、老婆の胸から鉄棒が生えてきています。グレーテルも、同じことをしたのです。

 牢から出て、老婆を見下ろすヘンゼルとグレーテルに、老婆が、またイヤらしい笑いを貼りつけて言いました。
「ここを出たって、お前らに安住(あんじゅう)の場所なんて、ないよ」
「どういうことだ?」
 ヘンゼルの問いに、口の中に溜まった血を吐き捨て、老婆が言いました。
「お前たちがここに来たのは、偶然じゃない。……売られたんだよ、二親(ふたおや)にね!」
 それを聞いたグレーテルが両手で口を覆い、涙ぐみます。横目でそれを見たヘンゼルは、反射的に老婆の襟首を掴みました。
「キサマッ!」
 老婆が、弱々しい、しかしあざ笑う声を上げて、言いました。
「お前たちを待っているのは、修羅の道さ。せいぜい、兄妹、仲良くするんだよ」
 そして、体中の空気を吐き捨てるような高笑いを上げ、絶命しました。

 その部屋は地下室だったようです。二人は一階へと上がり、隠し部屋を見つけました。そしてそこに、武器と、地図を見つけました。
「そうか、母さん、この地図の目印を見てたのか」
 そう呟き、ヘンゼルはグレーテルを連れて家を出ました。そして、懐かしい我が家へと帰ってきたのは、夕暮れのことでした。


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