20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第79回   親指姫の物語。14
「この糸は、なにかの罠(トラップ)か?」
 木の枝に糸が引っかかっているのが見えたとき、そう呟いて、粛清者は辺りを窺(うかが)います。彼は、殺人術は磨いていますが、このようなトラップ・ワークなどの知識は持ち合わせていません。なので、この糸そのもの、あるいは先に、どのような仕掛けがあるのか、まったく推測できません。
 この場は、糸を避(さ)けて、回り込んだ行った方がいいかも知れません。
 なので、糸の外周を歩き出しました。やがて、糸が地面の方に伸びて、紐と結ばれているのが見えたとき。
「ここで終わりか」
 そう思い、その糸を避けて足を踏み出しました。その時、ぬかるんだ地面にあって、「硬い何か」を踏んだ感触があったかと思うと、その「硬い何か」の下から、まるで張り詰めていたところを切られたかのように、糸が引っ張り出されました。同時に、曲げられていたのでしょう、若木が風を切る音を立ててまっすぐ伸び上がり、その直後!
 足もとで爆発が起こりました。
「しまった! あの糸と紐はブラフか!!」
 若木の先に、二本、糸が結びつけてあり、一本は粛清者の足もとから伸びたように見えましたが、もう一本はそことは離れたところから伸びていたようでした。そして、もう一本の糸の先に金具らしきもの(手榴弾のピンに見えました)がくっついているのが見えましたが、爆発の勢いで吹き飛ばされ、樹の幹に頭を打ち付け、粛清者は、意識が遠のいてしまいました。

「なんで、私のことを助けたッスか?」
 森を抜けて爆音を聞いてから、開けたところで、ジェニファーは四人に聞きました。彼らの行動原則が理解できません。
 いつの間にか雲が晴れて、暗いながらも星の瞬く夜空が見えていました。
 ジャックが眼鏡のブリッジを右の中指で押し上げ、言いました。
「僕が死んだとき、泣いてくれるのが家族だけ、っていうのが寂しかったから、かな?」
 その言葉に、ヘンゼルとグレーテルが顔を見合わせ、溜息をつきます。
 ジャックがジェニファーに言いました。
「帰るところ、ないんじゃありませんか?」
 その通りでした。ヤサに帰るわけにはいきませんし、これから、逃亡生活に入ることになります。気分が重くなったとき。
「どうですか? 僕たちと一緒に来ませんか?」
 見ると、ジャックが右手を差し伸べています。
「僕たちは、組織と戦う者です。君の知識が必要なんです」
 笑顔を浮かべるジャックを見て、ジェニファーはしばし考えました。
 はたして、組織から、逃げ続けられるものだろうか?
「私、そんなに詳しくないッスよ?」
「それでも、僕たちよりは、知ってるでしょ?」
 微笑みかけるジャックを見ると、彼らに合流した方がいいような気がしてきました。
 手を伸ばし、彼女は言いました。
「ジェニファーっていいます。この国の出身じゃないッスけど、小さい頃からいるんで、言葉は問題ないッス」
 二人はしっかりと握手しました。


(親指姫の物語。・了)


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 11364