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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第78回   親指姫の物語。13
 ぬかるんでコンディションの悪い足場、というのは、お互いにとって、フィフティフィフティのはずでした。ですが、粛清者(アンデルセン)は木々の幹を足場に、森の中を縫うように移動するのです。それは単純な脚力ではなく、まるで「空に浮くことに長(た)けている」ようにさえ、思えました。
 そして気がつくと、目の前に来ていたのです。ならば、相手の兜を外し、その口に手を突き込もうとしたのですが。
「!?」
 それより早く粛清者が右腕を掴んできました。そして、それだけのことなのに、全身が痛むのです。まさか、魔法でも使えるのでしょうか?
 粛清者が右の拳(こぶし)を構えます。直感的に「もう駄目だ」と思った時。
 発砲音が轟いて、粛清者の背で火花が散りました。
「うぬっ!?」
 粛清者が振り返ります。続けざまに二発の銃撃。いずれも粛清者の鎧に命中し、火花を散らせます。
 粛清者の手がジェニファーから離れたとき、誰かの手が彼女の手を引きました。振り向くと、そこにいたのはグレーテル。
「こっちよ!」
 グレーテルがジェニファーの腕を引っ張ります。一体、何事が起きたか、と思っていると、粛清者がこちらを向きました。そして、追いかけようとして、いきなりその体が強ばりました。まるで、宙づりになったときにジェニファーが陥った状態のようです。
 その背に何かが命中し、爆発しました。どうやら、擲弾(グレネード)が命中したようです。さすがに効いているらしく、粛清者が倒れ込み、呻きました。その隙に、グレーテルがジェニファーを引きずっていきます。しかし、そのルートは、妙にジグザグしたもので、直線ではありません。なぜ、こんなところを走るのか、と思っていたら、その先にジャックがいました。そして、グレーテルはジャックとすれ違いざま、何かをジャックに手渡します。
 それを受け取ったジャックは頷き、何かを引っ張り、その何かを結びつけます。夜目に、それは紐のように見えました。
 そして、ジャックもこちらに駆けてきます。粛清者も後を追ってきましたが、不意に立ち止まりました。
「さすが。樹の幹や枝に引っかけた糸がわかりましたか」
 何を言っているのかわかりませんが、
「上出来」
 そう言って、ニヤリとしたのが印象的でした。
「さあ、逃げますよ」
 その言葉に頷き、走り出したジャックの後を追って、グレーテルはまた、ジェニファーを引きずっていきました。


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