ぬかるんでコンディションの悪い足場、というのは、お互いにとって、フィフティフィフティのはずでした。ですが、粛清者(アンデルセン)は木々の幹を足場に、森の中を縫うように移動するのです。それは単純な脚力ではなく、まるで「空に浮くことに長(た)けている」ようにさえ、思えました。 そして気がつくと、目の前に来ていたのです。ならば、相手の兜を外し、その口に手を突き込もうとしたのですが。 「!?」 それより早く粛清者が右腕を掴んできました。そして、それだけのことなのに、全身が痛むのです。まさか、魔法でも使えるのでしょうか? 粛清者が右の拳(こぶし)を構えます。直感的に「もう駄目だ」と思った時。 発砲音が轟いて、粛清者の背で火花が散りました。 「うぬっ!?」 粛清者が振り返ります。続けざまに二発の銃撃。いずれも粛清者の鎧に命中し、火花を散らせます。 粛清者の手がジェニファーから離れたとき、誰かの手が彼女の手を引きました。振り向くと、そこにいたのはグレーテル。 「こっちよ!」 グレーテルがジェニファーの腕を引っ張ります。一体、何事が起きたか、と思っていると、粛清者がこちらを向きました。そして、追いかけようとして、いきなりその体が強ばりました。まるで、宙づりになったときにジェニファーが陥った状態のようです。 その背に何かが命中し、爆発しました。どうやら、擲弾(グレネード)が命中したようです。さすがに効いているらしく、粛清者が倒れ込み、呻きました。その隙に、グレーテルがジェニファーを引きずっていきます。しかし、そのルートは、妙にジグザグしたもので、直線ではありません。なぜ、こんなところを走るのか、と思っていたら、その先にジャックがいました。そして、グレーテルはジャックとすれ違いざま、何かをジャックに手渡します。 それを受け取ったジャックは頷き、何かを引っ張り、その何かを結びつけます。夜目に、それは紐のように見えました。 そして、ジャックもこちらに駆けてきます。粛清者も後を追ってきましたが、不意に立ち止まりました。 「さすが。樹の幹や枝に引っかけた糸がわかりましたか」 何を言っているのかわかりませんが、 「上出来」 そう言って、ニヤリとしたのが印象的でした。 「さあ、逃げますよ」 その言葉に頷き、走り出したジャックの後を追って、グレーテルはまた、ジェニファーを引きずっていきました。
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