帰る道々、ヘンゼルは言いました。 「これがなんなのか分からないけどさ、これでブレンバリとかいう貴族の、身内どもに取り入ることが出来るんじゃねえの? 弱みが見つけられたんだろ?」 グレーテルも言います。 「そうね。あのアントーニオとかいう司教も、見るからにあやしいし。その周辺も探ったら、いいかも?」 少し考え、ジャックが言いました。 「そうですね、このザックの中身については、もう少し、検討しましょう。一貴族に留まるものではないような、そんなものかも知れません」 ヘンゼルが聞きます。 「俺たち、そんなに学があるわけじゃねえからわかんねえけどさ、それって、そんなにすげえものなのか?」 「ええ。もしこれが、貴族たちの間で広まっていたとしたら、ひょっとすると王族すら、後ろ盾に出来るかも知れません」 驚いてヘンゼルは言いました。 「それって、一国の軍隊すら味方に出来るかも、ってことか!?」 期待が胸にわき起こります。もしかすると、本当に組織を潰せるかも知れません。もっとも、潰したからといって、幼かった頃の幸せな日々が、取り戻せるわけではありませんが、そういう問題ではないのです。 グレーテルも表情に輝きが生まれます。 その中で、ふと思い出したようにアンネが言いました。 「あの『シュヴァルベ』と名乗っていた女の子、何者でしょうか?」 ヘンゼルは答えます。 「さあ? 何者かは知らないけど、俺たちの仕事の手間を省いてくれたんだから、どうでもいいんじゃねえの?」 首を傾げてから、グレーテルが言いました。 「組織のヤツだったりして?」 ジャック、アンネが立ち止まります。ヘンゼルも歩を止めました。 三歩ほど歩いて、みなが脚を止めたことに気づき、グレーテルも立ち止まって振り返りました。 「ほら、この前のフレドリカってやつ、ラプンツェルが持ってる『アレ』を探してたんでしょ? だったら、組織のヤツって事になるし。シュヴァルベからも、同じ『臭い』がしたし」 それを聞き、ジャックが何か考えています。時折、「組織の者、任務失敗、粛清」と呟きながら。 しばらく置いて、ジャックが言いました。 「戻ります。彼女を助けましょう。彼女は粛清者(エンフォーサー)に、始末(け)されるかも知れません」 「はああああああああ!?」 ヘンゼルは頓狂な声を上げました。 「なんで!? ほっとけよ、あんなヤツ! 組織の者なら、なおさらだ!!」 グレーテルも言いました。 「そうよ! だいたい、シュヴァルベのことだって、殺して奪えば早いのに、生け捕りにして奪う、なんて、生ぬるいわ! どうしちゃったの、ジャック!?」 それには答えず、ジャックは言いました。 「君たちは、先に戻っていてください」 そして、踵(きびす)を返したとき。 「私はついて行きます」 と、アンネがジャックに近づきます。 「有り難う。君の念動力(サイコキネシス)は助けになります。粛清者は電気を使うそうですから」 アンネが眉を険しくします。 「……そいつ、『電気』を使うの?」 「ええ。そのようにラプンツェルから聞いていますが?」 しばらく考えて。 「行きましょう、ジャック」 特に何を言うでもなく、ジャックのそばに行きます。 歩き出す二人を見て。 「あー、もー! わかったよ! 俺も行くってば!!」 歩き出すと、後ろからグレーテルの声が「待ってよ、ヘンゼル!」と、ついてきました。
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