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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第72回   親指姫の物語。7
 教会の一室で、ワインを飲みながらブレンバリが言いました。
「こんな田舎町で黒ミサなど、できるのか、アントーニオ司教?」
 その問いに、血の滴る生焼けのステーキをほおばりながら、司教は応えました。
「なアに、近くには、いい街もありマス。一月(ひとつき)もあれば、ここがまた『拠点』の一つとなりマス。そうすれば、いろいろと権益(オゼゼ)が……」
 そして二人して笑います。
「で、今日は、一体?」
「この教会を建て増して、『秘密の部屋』を作っていただくよう、候からストランドバリの田舎者に話していただきたいのデス。ココには、適当な部屋がナイ。口実は、どうとでも……」
「なるほど。『生け贄』の娘どもと、『儀式』を行うための、部屋ですな?」
 そして、二人して、また下品な声を立てて笑います。
 その様子を、物陰で聞きながら「シュヴ」は心の中で呟きました。
『うわっちゃあ、悪魔召喚ッスか! とんだ背教者(ヘレティック)どもッスねえ……。こりゃあ、教皇庁に知られたら、大ごとじゃないッスか。……あれ? ちょっと待って?』
 ふと、「シュヴ」は思い至りました。
『この間の伝書鳩の通知で知ったけど、ヨセフィンが隣の国から帰ってきてたッスねえ。あの時の任務(ミッション)は、確か、この国の貴族・ファールクランツ伯を追っかけて調査、って事だったッスなあ。伯が錬金術に傾倒しているらしいから、それがどの程度か、調査するってことだったッス』
 錬金術は、金や万能薬の精製だけでなく、生命の創造にすら、踏み込んでいます。生命の創造は神の御業(みわざ)であり、それに手を染めることは背教(アポスタシィ)以外の何ものでもありません。
『……そういえば、結構前、アルフリーダが王城に乗り込むってんで、髪飾りの偽造を依頼されたけど。……隣の国に旅行に行った貴族が背教者で、王城に潜入調査が入って。この近くの街に常駐している私の任務(ミッション)は、ここに来るブレンバリ候とアントーニオ司教の調査で、そいつらは悪魔信奉者』
 しばらく考えて。
『アルフリーダが任された「王家の不正暴き」って、悪魔召喚のことだったッスか! そんじゃあ、もしかして、うちらのトップって、教皇庁だったりして?』
 そこから先は、深く考えない方がよさそうです。
 とりあえず、確かな証拠を掴まねばなりません。教会の調査よりも、先にブレンバリ候の荷物を探った方が早いかも知れません。
 こっそりと教会を出て、ストランドバリ候の邸宅へと戻ります。一瞬、ブレンバリ候の馬車に細工して、帰ってくるのを遅くしてやろうと思いましたが、御者と護衛兵が二人ずついたので、断念しました。
「そういえば、アルフリーダやヨセフィンから、『王城へ行く』って連絡があってから、それっきりになってるッスねえ。元気だといいけど」。
 そんなことを思いながら、駆けていました。


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