教会の一室で、ワインを飲みながらブレンバリが言いました。 「こんな田舎町で黒ミサなど、できるのか、アントーニオ司教?」 その問いに、血の滴る生焼けのステーキをほおばりながら、司教は応えました。 「なアに、近くには、いい街もありマス。一月(ひとつき)もあれば、ここがまた『拠点』の一つとなりマス。そうすれば、いろいろと権益(オゼゼ)が……」 そして二人して笑います。 「で、今日は、一体?」 「この教会を建て増して、『秘密の部屋』を作っていただくよう、候からストランドバリの田舎者に話していただきたいのデス。ココには、適当な部屋がナイ。口実は、どうとでも……」 「なるほど。『生け贄』の娘どもと、『儀式』を行うための、部屋ですな?」 そして、二人して、また下品な声を立てて笑います。 その様子を、物陰で聞きながら「シュヴ」は心の中で呟きました。 『うわっちゃあ、悪魔召喚ッスか! とんだ背教者(ヘレティック)どもッスねえ……。こりゃあ、教皇庁に知られたら、大ごとじゃないッスか。……あれ? ちょっと待って?』 ふと、「シュヴ」は思い至りました。 『この間の伝書鳩の通知で知ったけど、ヨセフィンが隣の国から帰ってきてたッスねえ。あの時の任務(ミッション)は、確か、この国の貴族・ファールクランツ伯を追っかけて調査、って事だったッスなあ。伯が錬金術に傾倒しているらしいから、それがどの程度か、調査するってことだったッス』 錬金術は、金や万能薬の精製だけでなく、生命の創造にすら、踏み込んでいます。生命の創造は神の御業(みわざ)であり、それに手を染めることは背教(アポスタシィ)以外の何ものでもありません。 『……そういえば、結構前、アルフリーダが王城に乗り込むってんで、髪飾りの偽造を依頼されたけど。……隣の国に旅行に行った貴族が背教者で、王城に潜入調査が入って。この近くの街に常駐している私の任務(ミッション)は、ここに来るブレンバリ候とアントーニオ司教の調査で、そいつらは悪魔信奉者』 しばらく考えて。 『アルフリーダが任された「王家の不正暴き」って、悪魔召喚のことだったッスか! そんじゃあ、もしかして、うちらのトップって、教皇庁だったりして?』 そこから先は、深く考えない方がよさそうです。 とりあえず、確かな証拠を掴まねばなりません。教会の調査よりも、先にブレンバリ候の荷物を探った方が早いかも知れません。 こっそりと教会を出て、ストランドバリ候の邸宅へと戻ります。一瞬、ブレンバリ候の馬車に細工して、帰ってくるのを遅くしてやろうと思いましたが、御者と護衛兵が二人ずついたので、断念しました。 「そういえば、アルフリーダやヨセフィンから、『王城へ行く』って連絡があってから、それっきりになってるッスねえ。元気だといいけど」。 そんなことを思いながら、駆けていました。
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