「ねえ、シュヴァルベ。あなたの名前、ちょっと変わってるわよね?」 「ある地方の言葉で、『ツバメ』っていう意味があるそうです。『シュヴ』でいいッスよ、お嬢様」 「そう。……シュヴ、あなた、とても強そうだけど、体、鍛えてるの?」 少女は、軽く笑って言いました。 「私が住んでたのは、山の中なんで、力仕事とか、山賊対策に、護身術とか、いろいろとやってたンス」 「そうだったの。確か、ここへは、旅の路銀(ろぎん)稼ぎに来たっていうことだったけど、どこへ行くの?」 「風の向くまま、気の向くまま。特に目的地なんか、決めてないッス」 笑顔の少女を見ていると、マルグリットは心底、羨望(せんぼう)の念が沸いてきます。 「いいなあ。私も、旅がしたいわ」 そんな会話をしていると、廊下で一人のメイドの少女とすれ違いました。籠(かご)に入れた、大荷物を抱えています。どうやら、ブレンバリの従者たちの荷物の、その一部のようですが、重そうなのに軽々と持ち運ぶ様は、驚きでした。華奢(きゃしゃ)な体に似つかず、たいへんな力持ちです。この少女も、先の青年と同じ頃に雇い入れた者でした。 部屋まで来たとき、一人のメイドの少女が待っていて、マルグリットに言いました。 「お嬢様、お湯を張ってございます。お手伝いいたします、湯浴(ゆあ)みを」 と、一礼します。この少女は、先の二人より、二日ほど前にメイドとして雇い入れた者です。 「わかったわ、有り難う。先に行ってて」 お辞儀して、少女は歩いて行きました。 それを見送り、マルグリットは、溜息をつきました。 「どしたッスか、お嬢様?」 「え? ええ、あの男……ブレンバリ候エスビョルンがまた言い寄ってくるだろうなあ、と思うと、気が塞ぐの」 その言葉を聞き、少し考えて、シュヴがニカッと笑い、右手の親指を突き立ててコチラに腕を伸ばすと、言いました。 「任せるッスよ、お嬢様!」 「何、その親指を突き立ててるのって?」 「私の住んでたトコでは、これって、『任せろ』とか『大丈夫』とかっていう意味ッス!」 「そ、そう?」 なにやら、意味のわからないジェスチャーですが、シュヴの笑顔を見ていると、どこか安心感が湧いてきます。
少女と別れ、マルグリットは浴室へと向かいました。そこには、さきほどの少女が待っていました。美しい少女です。先ほど廊下ですれ違った少女も美しいのですが、あちらは凜とした美しさ、こちらは、ほのかに色香が漂います。 その時、一人の少年が現れ、少女に何やらあごをしゃくりました。この少年は、この少女と同じ日に庭師として雇い入れた者です。顔見知りらしく、時折、お喋りしているのを見かけます。それに頷き返すと、少年はマルグリットに一礼して、去って行きました。 「さあ、お嬢様。お召し物を」 「え? ええ……」 先ほどの無言のやりとりが気になりましたが、自分には関係ないだろうと思い、マルグリットは少女に近づきました。
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