20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第69回   親指姫の物語。4
「やあ、フロイライン・マルグリット」
 マルグリットが図書室にいると、晩餐の席で顔を会わせたブレンバリ候エスビョルンが、入ってきました。
 マルグリットは、この男にいい印象を抱いていません。見た目はヒキガエルのよう。食事中も、マルグリットを見る目は粘着質で、口元には下卑た笑いが、時折、浮かんでいました。
 ブレンバリ候が近づいてきました。
 顔に貼りついた笑みが、図書室の壁にしつらえられた燭台(しょくだい)の、弱い光とあいまって、マルグリットには屠殺(とさつ)する牛を品定めしている、仲買人のように思えました。
 思わず後じさりましたが、すぐ書架に背がぶつかります。
「な、なんでしょうか?」
 声が震えているのが、自分でもわかります。これは「女性としての危機感」というより、「人間としての危機感」によるものでした。
「そう、恐れるな。よく考えろ、お前のようなキズモノ、誰が好き好んで、妻に迎えるというのだ? せいぜい、庶民の男がいいところだろう。下手をすると、下民(げみん)の慰(なぐさ)みものになるのが関の山」
 笑うと、ブレンバリ候は無遠慮に、マルグリットが首に巻いたストールを、引きはがしました。
 声を上げ、喉を隠そうとしましたが、それより早くブレンバリがその腕を掴みます。
「ほう……。これは思ったより……。いや、見ようによっては、なかなかに芸術的ではないか」
 そう言って、ブレンバリがくぐもった笑い声を立てます。屈辱的な言葉に耐えていると、自然と涙がこぼれました。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 11218