「ブレンバリ候」 王妃が再び言ったので、エスビョルンは思索から帰りました。 「お前の『性癖』は知っているよ? ……どうだい、フロイライン・マルグリット、妻に迎えて、お前の『性癖』を満足させては?」 ニヤニヤと笑う王妃の顔は、まさに悪魔(デーモン)です。 そう、この女は、この城に悪魔召喚の儀式を持ちこんだのです。最初は抵抗がありました。もしこんなことが教皇庁に知れたら、教会法によって、それに参加したものだけでなく、王族も容赦なく処断されます。 ですが、今は、すっかりその魅力に囚われていました。「悪魔召喚の儀」で行われる背徳的な行為の数々は、すっかりと脳髄を痺れさせ、甘い棘(とげ)が全身を刺すのです。最初はそれを「毒」だと思っていましたが、一年もしないうちに、それは自分を天上へと導く、この上ない秘薬(エリクシル)となっていたのです。 彼の前の妻も、その「秘薬」による犠牲者……いえ、殉教者でした。大いなる秘薬のもと、彼女の体に刻まれるムチや焼きゴテの刻印は、さながら血によって描かれる悪魔の紋章の如く、エスビョルンの精神を昂揚の極みへと押し上げたのです。やがて妻は世を去りましたが、その顔には、この世ならざる世界を垣間(かいま)見た者のみが持つ「愉悦」が浮かんでいたように、エスビョルンには思えました。 「フロイライン・マルグリット……。どのような娘ですか?」 王妃がまたいやらしくニヤつきます。 「今から四年前、あの娘が十四の頃、王城に登城したんだよ、王子の誕生祝いのパーティーにねえ。その時、王子に色目を使いやがったのさ。王子もまんざらじゃなかったみたいだったからねえ。それなら、と、誰にも手をつけられないように、顎(あご)の下に『売約済み』の焼き印をくれてやった。……どうだい? どんなに『美しい』娘か、わかるってもんだろ?」 そして、王妃は声を立てて笑います。 前はおぞましく思っていた王妃の笑いですが、今は「悪い女だ」と冷ややかに笑う程度に感じられるようになっています。エスビョルンは、考えてみました。 王子が目をつけ、王妃がキズモノにするぐらいなのだから、かなりの器量に違いない。あれから四年経っているとのことだが、一度、顔を拝んでおくのもいいだろう。もし、自分好みであれば……。 昏い愉悦に身を浸しながら、エスビョルンはストランドへと赴いたのです。
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