「よう、お帰り」 と、森の一角で野営しているヘンゼルが言いました。もう、夕方です。グレーテルが、どこかで調達してきたらしい野菜となにかの肉で、スープを作っていました。 「どうだったの、ラプンツェルの具合は?」 ジャックの背でラプンツェルが診察の様子を話します。そして、ジャックが言いました。 「ここなら、信用できそうです。ラプンツェルには、ここで、しばらくの間、養生してもらいます。信頼できる人も、見つけましたので」 ヘンゼルが、大して感傷を抱いていないような表情で「そうか」と応えます。 ふと。 ジャックはヘンゼルとグレーテルに問いました。 「君たちは、『人を殺す』、ということについて、どう考えていますか?」 ヘンゼルが怪訝そうに言いました。 「なんだよ、藪から棒に?」 それでも、何かを考えて答えました。 「俺たちの目的を邪魔する者は、消す。それだけだろ?」 グレーテルも答えます。 「わたしたちが消してきたのは、クズばかりだったわ。死んで当然!」 少し誇らしげな笑みで。 それを見たジャックは何を思うのか。 その時、ジャックとラプンツェルが行ったのとは、別の街でマッチ売りをしていたアンネが帰ってきました。 「面白い話を聞いてきました」 そう言って、四人に言いました。 「ここから北に行って、山を迂回した先に、ストランドっていう辺境があるそうですが。今、そこには、どういうわけか、王都からの貴族や使者が、頻繁(ひんぱん)に赴いているそうです」 奇妙なものを感じジャックは言いました。 「辺境に、王都からの貴族が頻繁に? 何かの祭とか、重要な祭儀でも、開かれるのですか?」 アンネは首を横に振ります。 「そこまでは。ただ、そこの領主、ストランドバリ候は、その接待で、大わらわらしいです。その関係で、一時的にメイドや手伝いの者を、市井(しせい)から募っているとか」 それを聞き、ジャックは考え、みなに言いました。 「うまくすれば、訪れた貴族に、我々のことを印象づけられます。我々も向かいましょう」 ヘンゼルとグレーテルが頷きます。 ジャックはラプンツェルに言いました。 「あなたは、ここに残ってください」 「ジャック。……どうか、無事で」 その言葉に頷くと、ジャックたちはオペレーション・ミーティングを始めました。
(北風と太陽の物語。・了)
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