次に入ってきた患者は、眼鏡をかけた青年と、それより十歳ぐらい年上の女でした。女は、もし病に冒されていなければ、さぞ美しかっただろうと思うような風貌です。その女に、ランヒルドは見覚えがありました。相手の女も、ランヒルドのことを見て、何かに気がついたようですが、この場は黙っていた方がいいと思い、ランヒルドは女のことは、初対面であるように振る舞うことにしました。それは、相手の女も同じようです。 「お連れの女性が、患者さんですね?」 確認して、アイソポスは問診を始めました。女の体調、現状、既往歴、職歴などなど。また、触診で体に触れていましたが。 「もしかして、以前、足や腕、肋骨(ろっこつ)などを骨折したり、肺を損傷したことは?」 わずかですが、女がうろたえたように思えました。ですが、黙っていてもわかってしまう、と思ったのでしょう。頷き、答えました。 「三年前、高いところから落下して……」 「そうですか」 少し考え、アイソポスは言いました。 「折れた足や腕を完治させずに、無理をしたのでしょう、骨折していない方の腕や脚に過負荷がかかり、いたんでいます。それだけじゃない、おそらく折れた骨が、変な風に内臓を刺激してしまっている。先ほど話された、時折息苦しくなる、というのは、おそらく肺が損傷しているのだと思います。この分では、他の臓器にもダメージがいっていますね」 思い当たるのか、女と青年が、顔を見合わせ、困ったような顔をします。 アイソポスが言います。 「安静にして、養生するのが一番です。旅暮らしなど、もってのほかですよ?」 青年が一瞬だけ目もと、口もとを動かしました。おそらく「なぜ、自分たちが旅暮らしをしているとわかったのか」と、思っているのでしょうか。 アイソポスやランヒルドは、時折、大きな街に買い出しに行きます。その時、衛兵詰め所に手配書が貼り出してあるのを見かけますが、それに書いてある名前と特徴が、青年のものと一致します。 だとすると、不自然です。今の青年の仕草からすると、青年は、自分がお尋ね者として手配されているのを知っている様子。ならば、名前を変えたり、変装するはず。にもかかわらず、彼は、本名で、おまけに変装もせずに此所(ここ)ヘやってきています。 まったく理解できません。まるで「自分たちのことを知られても構わない」と思っているようです。 ひょっとすると。 ランヒルドは突飛な考え方をしてみました。 この青年(正確には、あと二人)は、むしろ自分たちが見つかった方がいい、と思っているのではないか? 「……そんなわけはないか」
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