朝餉の支度が出来たと、呼びに来た侍女によって、冷たくなっているヨセフィンの体が発見されました。その周囲には、まるで格闘したかのような足跡が、いくつかありましたが、それは踵(かかと)を中心にして、方向転換のステップを踏んだような円形であり、泡(あわ)のように見えました。 ヨセフィンの死因はよくわかりませんが、侍医の所見では「心室細動が一番近い」とのこと。 この不審な死は、もう四人目です。 さすがに、異常な事態です。何か、恐るべき事態が起きているのではないか、と不安な王妃に、侍従長が言いました。 「我々のことを探っている『組織』があるようです」 「組織?」 「はい。どんな『組織』なのか、まるでわからず、そもそも噂話ですので、本当にそのようなものがあるのかもわからないのですが。ただ、このような奇っ怪なことが続きますと……」 「『組織』、か……」 王妃は考えました。実際にそのようなものがあるとして、何のために王家を探っているのか。しかし、この間、辺境候ストランドバリの娘を名乗っていたアルフリーダは、偽造した髪飾りを持っていた。出所については、とうとう聞けずじまいだったが、あんなものを用意できるとなると、おそらく大規模なものだろう。 「どうしたものだろうねえ……?」 そう言うと、侍従長がニヤリとして言いました。 「これも噂の域を出ませんが。かつて、『組織』の者を撃退した者たちがいるとか」 「ほう? そいつらは一体?」 期待を持って聞くと、侍従長は、あさっての方を向いてから言いました。 「西方の有力貴族・ラーゲルフェルト公のご息女は、お年頃だと聞きます。小官の愚息(ぐそく)も、そろそろ、嫁を迎える……いえ、どこかに『婿入り』する年齢でして……」 侍従長の意味ありげな言葉に、王妃は頷きました。 「わかった。国王の名前で、口を利いてあげるよ」 ちょっとだけ眉を動かし、侍従長は答えました。 「先(せん)だって、ハーメルンへと向かった徴税官一行が、無惨な最期を遂げました。それを仕組んだ者たちが、どうやら、かつて『組織』の者を、撃退したようにございます」 「ほう。して、その者たちの名は?」 「どうせ、偽名でしょうが。一人はヘンゼル、一人はグレーテル、今一人は、ジャックとか申すようでございます」 「なるほど……」 王妃は、侍従長の言葉に頷きました。 噂に過ぎないかも知れないが。 確認するのもいいかも知れない。 そう思いながら。
(人魚姫の物語。・了)
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