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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第60回   人魚姫の物語。8
 朝餉の支度が出来たと、呼びに来た侍女によって、冷たくなっているヨセフィンの体が発見されました。その周囲には、まるで格闘したかのような足跡が、いくつかありましたが、それは踵(かかと)を中心にして、方向転換のステップを踏んだような円形であり、泡(あわ)のように見えました。
 ヨセフィンの死因はよくわかりませんが、侍医の所見では「心室細動が一番近い」とのこと。
 この不審な死は、もう四人目です。
 さすがに、異常な事態です。何か、恐るべき事態が起きているのではないか、と不安な王妃に、侍従長が言いました。
「我々のことを探っている『組織』があるようです」
「組織?」
「はい。どんな『組織』なのか、まるでわからず、そもそも噂話ですので、本当にそのようなものがあるのかもわからないのですが。ただ、このような奇っ怪なことが続きますと……」
「『組織』、か……」
 王妃は考えました。実際にそのようなものがあるとして、何のために王家を探っているのか。しかし、この間、辺境候ストランドバリの娘を名乗っていたアルフリーダは、偽造した髪飾りを持っていた。出所については、とうとう聞けずじまいだったが、あんなものを用意できるとなると、おそらく大規模なものだろう。
「どうしたものだろうねえ……?」
 そう言うと、侍従長がニヤリとして言いました。
「これも噂の域を出ませんが。かつて、『組織』の者を撃退した者たちがいるとか」
「ほう? そいつらは一体?」
 期待を持って聞くと、侍従長は、あさっての方を向いてから言いました。
「西方の有力貴族・ラーゲルフェルト公のご息女は、お年頃だと聞きます。小官の愚息(ぐそく)も、そろそろ、嫁を迎える……いえ、どこかに『婿入り』する年齢でして……」
 侍従長の意味ありげな言葉に、王妃は頷きました。
「わかった。国王の名前で、口を利いてあげるよ」
 ちょっとだけ眉を動かし、侍従長は答えました。
「先(せん)だって、ハーメルンへと向かった徴税官一行が、無惨な最期を遂げました。それを仕組んだ者たちが、どうやら、かつて『組織』の者を、撃退したようにございます」
「ほう。して、その者たちの名は?」
「どうせ、偽名でしょうが。一人はヘンゼル、一人はグレーテル、今一人は、ジャックとか申すようでございます」
「なるほど……」
 王妃は、侍従長の言葉に頷きました。
 噂に過ぎないかも知れないが。
 確認するのもいいかも知れない。
 そう思いながら。


(人魚姫の物語。・了)


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