家に帰ったヨセフィンは、ただ、ぼうとなっていました。 王子は事もあろうに下民である自分に、求婚してきたのです。風の噂に「この国の王子は、この一年、やたらと嫁探しをしている。むしろ、嫁探しを急いでいる」というのを聞いていましたが、よもや庶民、いや、下民の娘にまで声をかけるというのは、前に住んでいた国の王族や貴族には、考えられないことでした。 「……そういえば、変な話、聞いたことあったわねえ……」 しばらく前、この国の王族の典範(てんぱん)や、内情について、妙な話を耳にしたことがありました。その時はただのうわさ話程度に考えていましたが、案外、本当のことかも知れません。 それより。 王子の求婚は、情熱的なものでした。あのように「女の子としての自分」を認められ、求められたのは、生まれて初めてでした。確かに、この街に来て……いえ、前の村でも、その前にいた町でも、男たちから声をかけられましたが、それは自分を単なる「欲望のはけ口」にしか捉えていないように、ヨセフィンには思えたのです。 もしかしたら、何人かは、ヨセフィンのことを本気で愛していたのかも知れませんが、当時は、そんなところにまで気を回す余裕はなかった……。いえ、そのような感性が欠如していたといってもいいのです。 しかし、王子は違うように思えました。あのように高貴な身分の者が、自分のような下賤の娘を、そのような目で見るとは、ヨセフィンには思えない、いえ、思いたくないのです。 このまま王子の求めに応じることが出来たなら、どんなにいいことでしょう。でも、それは叶わぬ望みなのです。 だって、彼女の正体は……。
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