昼下がり。 集会所の前で馬の嘶(いなな)きが聞こえました。青年たちが帰ってきたようです。 甲高い笛のような音がしたので、名主はドアを開けました。そこには、馬から下りた、例の青年がいました。 青年が手にした物を、集会所に放り込みます。憎き徴税官と、護衛隊長の首が、転がりました。名主だけでなく、多くの者が悲鳴を上げる中、青年のツレの少年が、何かを投げ入れます。誰のものかわかりませんが、剣を持った右腕でした。そして、同じく、青年のツレの少女が、何かを放り入れました。誰かの左腕でした。指輪をしています。この指輪には見覚えがあります。徴税官のものです。ということは、この右腕も徴税官のものでしょう。 これでは、報酬を支払わねばなりません。しかし、名主は、娘に未練がありました。それに街の者の中には名主の、娘に対する執着に気がついている者もいましたが、やはり、徴税官たちを殺したとなると、問題になります。なので、名主の「報酬は支払わない。取引は、そもそも成立していない」という提案に乗ることにしていました。 名主は言いました。 「誰が、殺せと言った!?」 「……はい?」 男が首を傾げます。 「我々は、『懲らしめて』欲しかっただけだ!! 『殺してくれ』とは、言っていない!!」 誰かが「そうだ!」と叫んだのを皮切りに、みなが口々に「出て行け」「報酬は払わん」などと言っています。 しばしおいて。 大げさに首を振り、青年は言いました。 「やれやれ。仕方ありませんねえ。では、帰ります」 そして、少年と少女を促して、その場を去りました。ただ去り際、 「『仕掛け』が無駄になればよかったのですが」 と言ったのが、気には、なったのですが。
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