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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第51回   ハーメルンの笛吹き男の物語。7
 昼下がり。
 集会所の前で馬の嘶(いなな)きが聞こえました。青年たちが帰ってきたようです。
 甲高い笛のような音がしたので、名主はドアを開けました。そこには、馬から下りた、例の青年がいました。
 青年が手にした物を、集会所に放り込みます。憎き徴税官と、護衛隊長の首が、転がりました。名主だけでなく、多くの者が悲鳴を上げる中、青年のツレの少年が、何かを投げ入れます。誰のものかわかりませんが、剣を持った右腕でした。そして、同じく、青年のツレの少女が、何かを放り入れました。誰かの左腕でした。指輪をしています。この指輪には見覚えがあります。徴税官のものです。ということは、この右腕も徴税官のものでしょう。
 これでは、報酬を支払わねばなりません。しかし、名主は、娘に未練がありました。それに街の者の中には名主の、娘に対する執着に気がついている者もいましたが、やはり、徴税官たちを殺したとなると、問題になります。なので、名主の「報酬は支払わない。取引は、そもそも成立していない」という提案に乗ることにしていました。
 名主は言いました。
「誰が、殺せと言った!?」
「……はい?」
 男が首を傾げます。
「我々は、『懲らしめて』欲しかっただけだ!! 『殺してくれ』とは、言っていない!!」
 誰かが「そうだ!」と叫んだのを皮切りに、みなが口々に「出て行け」「報酬は払わん」などと言っています。
 しばしおいて。
 大げさに首を振り、青年は言いました。
「やれやれ。仕方ありませんねえ。では、帰ります」
 そして、少年と少女を促して、その場を去りました。ただ去り際、
「『仕掛け』が無駄になればよかったのですが」
 と言ったのが、気には、なったのですが。


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