20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第5回   ヘンゼルとグレーテルの物語。1
 昔々、あるところに、ヘンゼルとグレーテルという仲の良い兄妹(きょうだい)が、両親と一緒に、森のすぐ近くに住んでいました。
 ヘンゼルはまだ十歳、グレーテルは八歳でしたが、二人は朝早く起きて、家の手伝いをし、時に遠くの町へ働きに行くお父さんのお手伝いをして、町でも、お仕事をしていました。
 しかし、生活はたいへんで、おまけにこの二、三年、農作物が不作だったこともあり、三〜四日に一度は、水と野草(やそう)の煮汁(スープ)だけで過ごしていました。
 ある夜のことです。
 夜中に目を覚ましたヘンゼルは、水を飲もうと台所へ行きました。その時、まだお父さんとお母さんが起きていて、何か話をしているのが、耳に入りました。なんだろうと思って、扉の影に立ち、ヘンゼルは聞き耳を立てます。すると、断片的でしたが、こんな言葉が聞こえてきました。
「……このままじゃ、一家全員、飢え死に……」「……適当な用事を見繕って……」「……明日、二人とも森の奥に置き去りに……」「……これで夫婦は助かる……」
 断片的にしか聞こえてこないので、はっきりとしたことまではわかりませんが、どうやら、「このまま行くと、一家四人、飢え死にするから、適当な用事を作って、明日、ヘンゼルとグレーテルを森の中に置き去りにすれば、とりあえず、お父さんとお母さんは救われる」ということのようです。
 たいへんです。いくら食べ物がなくて生活が苦しいとはいえ、まさか子どもを捨てようなどと、人間の所業とは思えません。
 いや、それより、今は自分たちのことが心配です。家の近くにある森は、とても広く、ヘンゼルたちも、入り口から、まだ五百ジャーマンエル(約二百メートル)ほどまでしか入ったことはありません。そのぐらいでも木々が生い茂り、昼でさえ、暗いのです。
 なんとかしなければ。そう思い、ヘンゼルはそっと表へ出ました。そして、目をこらします。そして、月明かりのもとでも、白く判別できる石を探しました。
 幸い、朝までにポケット一杯になるぐらい、拾うことができました。
 そして翌日のことです。
 ヘンゼルとグレーテルは、お母さんに連れられ、森の奥深くまで行きました。あちこちグルグルと歩き回ったので、どこがどこか、わかりません。お母さんは、「何か」を目印にしているようでしたが、残念ながらヘンゼルには、それが何なのか、見極めることができません。やはり、お母さんとヘンゼルの身長差では、そもそも「見えるもの」が違うのです。
「さあ、お前たち。ここでキノコや、木の実を拾うんだよ。夕暮れになったら、迎えに来るからね」
 グレーテルは、元気に「ハーイ!」と答えましたが、ヘンゼルは、両親の会話を耳にしているだけに、「うん」とは言えません。ですが、まだ「あれは、僕の聞き間違いだ、思い過ごしだ」と思っているので、どうにか「はい」と、答えました。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 11406