そんな問答をしていると、一人の娘が進み出ました。 「よろしかったら、私を報酬として、お連れください。私は、以前、王子の后候補として指名されたこともあります。私を売り飛ばせば、いくばくかのお金にはなります」 名主は、息を呑みました。この娘は、数年前、この街に流れてきました。一目見て、「これは上玉になる」と思った名主が、自分の元で養育していたのです。王都から后候補として召し出せ、と言われたときも、輿(こし)入れの準備中に急な病で死んだことにし、偽の墓まで作ったのです。 それもこれも、いずれ、自分が娘を味わい、愉しむためでした。 「お、おい、お前! いつ、ここに入った!? いや、そんなことはどうでもいい、お前、今、自分が何を言ったか……!」 うろたえているのが自分でもわかりましたが、おさえられません。娘がこちらを見ます。その目は、どこか、名主を蔑んでいるようでもありました。この娘が名主の心根を見抜き、軽蔑していることは知っていましたが、所詮、行く当てのいない娘、自分のところにいることしか出来まい、と思っていました。しかし、このように「旅に連れて行く」などという者が現れたら、娘は自分のもとを離れるでしょう。 青年が、娘を見て言いました。 「困りましたねえ。『裏(ウラ)』には、『棲み分け』というものがあるんです。花を買うならともかく、僕が花を売ったりすれば、仁義に反します」 どうやら、男は娘を連れて行く気はないようです。それに少々安堵したとき。 「では」 と、娘がどこからか燭台を持ってきて、机に置きました。そして、そのロウソクをひと睨みした瞬間! ロウソクが、勢いよく炎の柱を立てました。 初めて見る光景でした。娘が発火能力(パイロキネシス)を持っていたとは! もしかしたら、自分は、この娘に焼き殺されたかも知れません。 青年が意味深な光を両目に浮かべ、言いました。 「……面白い。わかりました。この子をいただきましょう」 取引が成立したようでした。
|
|