昔々、ハーメルンという街でのこと。この街は、今、苦しめられていました。王都から派遣される徴税官は、明らかに権限を超えたことをしているのです。この街の規模からすれば、半年に一度、小麦もしくは小麦粉四百プフント(約百八十キログラム)、または等価値の食品・貨幣・果実・工芸品が相場です。ですが。 名主(なぬし)は、徴税官一行の先触れとしてやってきた、使者の男が提示した命令書を見て、震える声で言いました。 「小麦粉五百プフント、もしくは葡萄酒十二樽、あるいは金細工の工芸品七十人分……」 「徴税官様一行は、三日後には、到着なさる。接待についても、失礼のないように!」 そう言って、使者は逗留している宿へと帰っていきました。 名主は、街の集会所へと行きます。伝令を走らせたので、ほどなくして、街の有力者たちが、集まってきました。職工組合(ギルド)や、商人組合、様々な者たちが集まり、総勢は三十人をこえています。 みな、口々に「ムチャクチャだ」と言っていますが、どうにもなりません。下手に逆らうと、何をされるか、わからないのです。 かつて、この街担当の徴税官の横暴を、王都へと直訴に行ったのですが、一ヶ月後、直訴に行った男たちの首が、徴税官の使者によって、届けられました。それとなく使者が言っていましたが、「監視は、ぬかりない」ということですから、直訴に行っても、どこかで捕まり、「上」へは伝わらない、ということでしょう。 あるいは。 水増しした分が賄賂(わいろ)として使われているとしたら、高官や貴族に流れている可能性もあります。一徴税官だけの問題ではないかも知れません。 「どうしたものか……」 この日、何度目になるか、分からない溜息をついたときです。 「お邪魔いたしますよ」 集会所のドアを開けて、一人の青年が入ってきました。まだ若い男です。二十代後半ぐらいでしょうか。眼鏡をかけた長身の優男ですが、着ている服は、どこか奇妙です。この街の流行りとは少し違いますし、旅慣れした雰囲気もあります。言葉にちょっとしたなまりがあり、おそらく他国の者と思われました。 「僕、旅をしておりまして、この街へは、昨日、やって参りました。宿のご主人に、今夜の食事の献立について、お願いしたい事があったのですが、お留守でして。宿の方(かた)のお話では、集会所にいらっしゃる、ということでしたので」 誰かが制止の声を上げかけましたが、青年は構わず、ズカズカと名主の元へと歩み寄ります。 「いかがでしょう? お困りなら、僕がなんとかいたしましょうか?」
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