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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第42回   ラプンツェルの物語。8
 その場所は、昼なお暗い場所です。途中でグロック二〇のマガジンを再装填(リロード)して、木の根元に身を隠します。
 あれから、少女の気配はありません。しかし、油断は禁物です。どうにか相手の優位に立って反撃しないと、森を抜けても命の危険がなくなったわけではないのです。
 神経を研ぎ澄ませて、辺りの気配を探ります。風が抜けていく、葉ずれの音はしますが、足音らしいものはしません。
 深呼吸を三度。フレドリカは意を決して、少しだけ腰を伸ばし、木の陰から体を出します。
 次の瞬間、弾丸が、駆け抜けていきました。
「この角度は……!」
 銃弾は、フレドリカの体を通り越した、離れたところにある樹の根元に着弾したのです。咄嗟に樹上を見ましたが、狙撃者の姿はありません。試しに銃弾が来た方向へと、三発ほど撃ちましたが、小動物の声や小鳥が羽ばたく音がするだけです。
「地面を歩くんじゃなく、木を伝ってきたのか。風による葉擦れの音に紛れて」
 フレドリカは舌打ちをしました。今日、何度目の舌打ちでしょう。
「でも、なぜ、私の位置を正確に把握できたのかしら?」
 フレドリカは用心して、この場に隠れたのです。おまけにここは、暗くて、光の差さないようなところ。視認するのは、とうてい……。
 次なる狙撃に備えて、銃を構えたとき。
「! これは!」
フレドリカは自分の服が、淡く光っているのに気づきました。
「そうか、ヤコウチュウ……!」
 海には、ヤコウチュウという生物がおり、発光するというのをレクチャーされたことがあります。海辺で野営するとき、夜間照明の代わりになる、という内容でした。
 自分が浴びせられたのは、塩水、もとい潮水(しおみず)だったのです。
 となると、あの水を頭から被った自分は、この暗い中で位置を相手に知らせているのと同じです。
 どこかに真水(まみず)はないか。水を被った上着を脱ぎながら、フレドリカは辺りを見回します。髪を洗わないと、ここでは、圧倒的に不利です。同じく水が染み込んで発光するスカートを脱ぎます。スカートをダガーで裂いて、水の染みていない部分で頭を覆ったとき。
 フレドリカは池を見つけました。
 あの池で、髪を洗おう。そう思って、フレドリカはなるべく髪を隠すように、地を這いました。幸い、狙撃はありません。池のほとりまで行き、それを覗き込むと、水面(みなも)に少女の顔。フレドリカは視線を水面に走らせます。もし周囲や上空に接近者がいれば、映るはず。
 ですが、そのような影はありません。
 それでも警戒を解かず、用心しながらフレドリカは頭に巻いた布を外そうとして。
 ふと、水面に映る少女が、頭に布を巻いていないことに気づきました。
「……しまった!」
 その少女の顔が、先刻、ツヴァイハンダーを持っていた少女と同じものであることに気づいたとき、そして自分が巧みにこの池まで、誘導されていたことに気づいたとき!
 少女の顔が水面を突き破って、フレドリカに迫りました。のけぞってそれをかわし、グロック二〇を構えましたが、引き金を引くより早く、少女の大剣が、空気とともにフレドリカの首を薙いでいきました。


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