「チィッ。その能力(ちから)が目覚めたか。こうなる前にお前を始末しようと思って、雪の中に放り込んだが……。組織の手伝いをするなら、よし。逆らうなら……」 お父さんの手から、稲妻が走りました。少女は、間一髪かわします。 さらに、もう一撃、少女を襲いました。しかし、少女は、空中でトンボを切って、稲妻をよけました。どうやら、彼女の身体能力も、超人的に覚醒したようです。 「ならば、これでどうだ!」 お父さんが、宙に浮かびました。そして、空から、稲妻を撃ってきます。それを、雪の上を、まるでホバリングしているかのような動きで、少女はかわします。
空中からそれを見ていたお父さんの目を逃れるように、少女は建物の影に身を隠します。お父さんも、空中を移動して回り込みますが、思ったよりも少女の移動が早く、その姿を捉えることができません。 「おのれ、チョコマカと!」 そう吠えると、お父さんは最大出力の電撃を放ちました。 あちこちに放電し、帯電していきます。建物から人々の悲鳴が次々に聞こえてきますが、そんなこと、知ったこっちゃありません。 電撃が、建物から空中を伝ったのか、少女が、悲鳴を上げて建物の影から転がり出ました。とどめを刺そうと、お父さんが構えた時! 「!? なんだ、あれは!?」 お父さんの視界に、巨大な「何か」が入りました。その「何か」は、建物に映る、巨人の影のようです。 影は、まるで巨大化していくように大きくなっていきます。 「ま、まさか、巨人召喚の能力にも、目覚めたのか!?」 驚いているお父さんですが、不意に炎が迫る気配に気づきました。 しかし、それに気づいた時は遅すぎました。お父さんは、少女が放った火に巻かれて、墜落しました。少女は、お父さんが「影」に気を取られる、この隙を逃(のが)さなかったのです!
「見事だ、我が娘よ」 かすかに残る気力を振り絞って、お父さんは少女をたたえました。 「あの巨人は何だったのだ?」 今、巨人は影も形もありません。少女は、哀しみをこらえ、あえて冷たい声で言いました。 「雪だるまの影よ。最初は遠くから火を起こしてその光を当てた。そして今の戦いの中で目覚めた念力で、火をつけた木の箱をコントロールして、急速に近づけたの。そうすると、影は大きくなっていって、まるで巨大化していくように見えるのよ」 その言葉に、お父さんは複雑な笑みを浮かべて言いました。 「お前なら、生き延びられるかも知れんな。だが、できれば、このまま平凡なマッチ売りとして生きていって欲しい。戦いに身を投じては……」 言いかけて、お父さんは口を閉じました。少女の顔に浮かぶ、決意を見てとったのでしょう。 かすかに微笑み、お父さんは息絶えました。
少女は泣きませんでした。 そして、お父さんの亡骸を置き去りにし、歩き出しました。 戦いが終わる、その時まで、涙は空にあずけておこう。 そんな決意を胸に抱いて。
(マッチ売りの少女の物語。・了)
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