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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第39回   ラプンツェルの物語。5
 二日後の朝、フレドリカは女のもとを訪れました。いつものように、街で調達した、料理の材料を持って。
 そして、扉の前まで行ったときです。
「……これは!!」
 血の臭いが漂ってきます。それも尋常ではないレベルで、です!
 もしや、女はオオカミ辺りにでも襲われてしまったのだろうか?
 抵抗したが、病身の女は、おそらく抵抗むなしく、オオカミに食われてしまった。
 しかし、扉は閉まったままです。オオカミが人を食い荒らしたあとで、扉を閉めていくなんてことはありません。
 用心深く、フレドリカは中の様子を窺います。物音一つしません。そこで、静かに、扉を引き開けました。その時!
 最初、引き開けるときにちょっとした抵抗がありましたが、すぐにそれがなくなり、むしろ、勢いよく扉が開きました。それがブービートラップであったことは、フレドリカに獣の血がかかり、かぶっていた白いずきんが真っ赤に染まったことで、わかりました。
 即座に、扉から離れて状況を分析したフレドリカは、舌打ちしました。
「糸の先に、獣の血を入れた桶を結んでおいて、私が扉を引くと糸が引っ張られ、その途中に、刃物を仕掛けて、糸が切れるようにした。だから、桶が傾いて、私に血を浴びせた。さらに、家の中にも血をぶちまけておき、臭いの発生源を掴みにくくした。……さすがは『糸使い』の通り名を持つ、ラプンツェル!」
 すぐさま提げたバスケットから、グロック二〇を出し、寝台(ベッド)に向けて三発、鉛玉を撃ち込みました。
「まあ、そんなところには、いないと思うけど?」
 言いながら、寝台に近づきます。案の定、寝台はもぬけの殻。そして、そばの床板が、何枚か、外してありました。その下の地面は、深く掘られ、人(ひと)一人(ひとり)が、身をかがめて通れるだけの『道』が作ってあります。
「……そうか、ラプンツェルの『連れ』は、ここを通って、出入りしていたのね。だから、戸口を監視していても……」
 いったん、外へ出て、この「道」を追尾しようと思ったときです。何かが風を切る音がしたかと思うと、なにものかが迫る足音が聞こえてきました。この足音はおそらく……。
「なるほど、私に獣の血を浴びせたのは、このためね」
 言うが早いか、足音の方へ向かって引き金を二度引きます。
開いた窓から、跳び入ろうとしていた二頭のオオカミが、悲鳴とともに、もんどりをうって絶命しました。
 窓のところまで行き、窓枠で身を隠しながら外を窺います。しかし、人の気配はありません。ふと、オオカミを見ると、脚には紐がくくりつけてあります。先ほどの風を切る音は、このオオカミをくくりつけていた紐を切る、刃物が出した音だったのでしょう。おそらく、このオオカミたちは眠り薬で眠らされていたのです。目が覚めると、空腹、そして血のニオイに気づき襲いかかる。そのように仕向けてあったのです。
 病身のラプンツェルに、こういうことをやるだけの体力的余裕があるとは思えません。どうやら、相手は素人ではないようです。
「先日(このあいだ)、ラプンツェルが眠っているときに家捜ししたけど。そうか、あれ、見られてたのね。だから、こういうトラップを仕掛けておいた」


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