小屋を出て、四半刻(約三十分)ほど経った頃。フレドリカは小屋に戻ってきました。 寝台の上では、女が寝息を立てています。念のため、様子をうかがいましたが、すっかり眠り込んでいるようです。 フレドリカは、昼食に出したスープに眠り薬を入れたのでした。ハーブは実は、セイヨウカノコソウだったのです。セイヨウカノコソウはリラックス効果を持つハーブで、快眠をもたらすといわれていますが、摂りすぎると強い眠気に襲われるとされます。そのハーブの風味を誤魔化すために、フレドリカは、羊の肉とスパイスを一緒に煮込んだのでした。羊肉(ひつじにく)の臭(にお)いを消すためにハーブを入れたのではなく、逆だったのです。 「さて、と」 フレドリカは小屋の中を見回しました。二日前に来たときに、一度「掃除をする」といって、家捜しをしましたが、それらしい物は見当たりませんでした。 だからこそ。 「一度、捜索された場所ほど、何かを隠すのに都合のいい場所はない、ってね」 そう呟いて、フレドリカは捜索を始めました。 しかし、それらしい物は見当たりません。 「となると……」 フレドリカは、寝台で眠っている女を見ました。 「こいつが、肌身離さず、持ってるってことになるか……」 裸に剥いて、調べることも考えましたが、その最中に目を覚ますかも知れません。「湯浴(ゆあ)みを手伝う」という口実を設けて、服を脱がせるのが、得策でしょう。 「仕方ない、『お宝』は、またの機会にするか。それじゃあ……」 と、フレドリカは小屋を出て、そこを視認できる場所に、身を隠しました。女の体調から考えて、ここに来たときに、誰かが一緒だったことは間違いないのです。どういうわけか、今は姿を見せません。しかし、必ずここに戻ってくるはずです。 女は「その人たち」と言いました。つまり、複数人なのです。 「そいつらが『お宝』について知っていたら……」 そう呟き、フレドリカは考えを巡らせました。そして導いた結論は。 「始末するしかないわね、可哀想だけど」 結局、その日は誰も小屋を出入りする者は、いませんでした。
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