20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第37回   ラプンツェルの物語。3
 数瞬おいて。
「ええ、その通りよ。わたし、生まれはこの国。『夢』を見て、グレート・ブリテン島へ行ったの」
「夢?」
「ええ。……『お仕事』がうまくいったら、『いい暮らし』が出来ると思ったから」
 その言葉には、裏になにかの「意味」が含まれているように思えましたが、それを追求せず、フレドリカは尋ねました。……話の核心を。
「ねえ、お姉さん、逃げるとき、ひょっとして、『宝物』を持って逃げたんじゃないの?」
「え!?」
 明らかに、女の顔色が変わりました。フレドリカは、たたみかけます。
「だって、私ならそうするもの、きっと。『宝物』があれば生活にも困らないし。それに、お姉さん、一人じゃないでしょ? だって、お姉さん、病気で満足に動けないもの。誰かがここまで連れてきてくれたか、ここで病気になったけど、しばらくお世話してくれる人がいたんじゃないかな?」
 女がフレドリカの視線から逃げるように、顔を背けます。
 その態度が雄弁に物語っていました。心中(しんちゅう)うなずいて、フレドリカは言いました。
「ねえ、その人に会わせてくれない?」
 女が驚いたように、フレドリカを見ました。警戒させないように、フレドリカは笑顔を浮かべます。
「私ね、『お姉さん』が欲しかったの。だから、ここでお姉さんに出会えて嬉しかったんだ。だから、その人にも会いたいの。ひょっとしたら、『家族』になれるかもしれないし」
 フレドリカは目を伏せます。目から涙がひとしずく。
 しばらくして、女が言いました。
「その人たちは、今は、ここにいないの。帰ってきたら、フレドリカに会わせるわ」
「ほんと!?」
 フレドリカの弾んだ声に、女が弱々しい笑みで頷きました。
「じゃ、じゃあ、『宝物』も見せてくれる!?」
 女の顔が曇りました。
「それは……」
「……そう。そうね、今はいいわ。でも、いつか、見せてね?」
 女は答えませんでした。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 11374