数瞬おいて。 「ええ、その通りよ。わたし、生まれはこの国。『夢』を見て、グレート・ブリテン島へ行ったの」 「夢?」 「ええ。……『お仕事』がうまくいったら、『いい暮らし』が出来ると思ったから」 その言葉には、裏になにかの「意味」が含まれているように思えましたが、それを追求せず、フレドリカは尋ねました。……話の核心を。 「ねえ、お姉さん、逃げるとき、ひょっとして、『宝物』を持って逃げたんじゃないの?」 「え!?」 明らかに、女の顔色が変わりました。フレドリカは、たたみかけます。 「だって、私ならそうするもの、きっと。『宝物』があれば生活にも困らないし。それに、お姉さん、一人じゃないでしょ? だって、お姉さん、病気で満足に動けないもの。誰かがここまで連れてきてくれたか、ここで病気になったけど、しばらくお世話してくれる人がいたんじゃないかな?」 女がフレドリカの視線から逃げるように、顔を背けます。 その態度が雄弁に物語っていました。心中(しんちゅう)うなずいて、フレドリカは言いました。 「ねえ、その人に会わせてくれない?」 女が驚いたように、フレドリカを見ました。警戒させないように、フレドリカは笑顔を浮かべます。 「私ね、『お姉さん』が欲しかったの。だから、ここでお姉さんに出会えて嬉しかったんだ。だから、その人にも会いたいの。ひょっとしたら、『家族』になれるかもしれないし」 フレドリカは目を伏せます。目から涙がひとしずく。 しばらくして、女が言いました。 「その人たちは、今は、ここにいないの。帰ってきたら、フレドリカに会わせるわ」 「ほんと!?」 フレドリカの弾んだ声に、女が弱々しい笑みで頷きました。 「じゃ、じゃあ、『宝物』も見せてくれる!?」 女の顔が曇りました。 「それは……」 「……そう。そうね、今はいいわ。でも、いつか、見せてね?」 女は答えませんでした。
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