昼食を終え、女が話を再開します。 「例のシーツで作った紐は、寝台の足にくくりつけてあったから、わたし、下を歩く子に向かって、刀豆(トウズ)を投げ落としたわ。……ああ、その刀豆は、何かの折りに、とっておいたものよ。暇つぶしに、窓から誰かに投げつけてやろう、って思ってね。目論見通り、その子は、わたしの方を見た。だから、わたし、シーツで作った紐を垂らして、男の子を誘ったの」 そして、女は夢見心地に、少年との情事を話しました。それはあたかも夜伽話(ピロートーク)を聞くようで、時折、女は恍惚の表情を浮かべていたのです。 「毎日のように、わたし、男の子を部屋に招き入れたわ。その紐は、まるでわたしの体の一部……そうね、まるでわたしの髪の毛のように、男の子の手や足の動き、体温をわたしに伝えた。あの子が強く紐を握ると、わたしの体が抱きしめられているようだった。あの子の鼓動が伝わると、それだけで、わたしの胸も高鳴った。でもね。うっかりしてたわ。わたし、すっかりその子に夢中になってしまって。それで……」 少しだけ言いよどみ、それでも女は言いました。 「わたし、亭主を殺したの」 空気が凍ったような気がしました。 「あの子が紐を伝って下に降りた時、亭主もその紐を伝って降りていったの。わたし、思わず、その紐を切っていたわ。亭主は真っ逆さま。即死だった」 自嘲の笑みを浮かべ、女は言いました。 「駄目ね、ちょっとした『遊び』のつもりだったのに、夢中になってて、無意識にでもそんなことをしてしまうなんて。わたし、当然のことだけど、そこには、いられなくて、ここに逃げてきたの」 そして、女はフレドリカを見ました。 「人目を避けて、ここに来たんだけど。あなたの『隠れ家』だったんでしょ、フレドリカ?」 フレドリカは答えました。 「ううん、いいのよ。この小屋に住んでたおじいさんは、街の嫌われ者で、お友達が一人もいなくて、気がついたら、亡くなってたの。おじいさんのあと、みんな、ここを嫌ってて。だから、わたし、みんなに内緒で、時々、ここに来て、誰にも邪魔されない時間を過ごしていたの。だって、街にいると、怖い人……家族とか男の人とか、いっぱいいるから……」 一瞬、目を伏せましたが、それでも元気を作ってフレドリカは女を見ました。 「だから、驚いたわ、五日前にここに来てみたら、お姉さんがいるんだもの。……ねえ、ここには逃げてきたって言ったけど。お姉さん、本当は、もともとこの国の人なんじゃないの?」 女の表情が少し動いたように見えましたが、気のせいでしょうか? 「ど、どうして、そう思うの?」 フレドリカは慎重に相手の様子を探りながら、続けました。 「だって、お姉さんの言葉、グレート・ブリテンの訛(なま)りがないもの」
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