昔々、あるところに、一人の少女が意地悪な父親と二人で暮らしていました。 ある年の大晦日、父親は言いました。 「このマッチを売ってくるんだ! 全部売るまで、家に帰ってくるんじゃないぞ!」 そして、少女は、マッチを売りに雪の降りしきる中、街へと出て行きました。 しかし、寒いので、人通りも少なく、マッチは、なかなか売れません。 そのうち、夜になりました。手が、かじかんできた少女は、一本だけなら、とマッチを点灯しました。 しかし、その火はあまりに弱々しく、またすぐに消えてしまいます。 そこで今度は、二本、一度に点灯しました。それでもその火は、少女の手はおろか、指さえ温めることはできません。 今度は、三本、火を付けました。少しだけ長く燃えましたが、それでも少女を暖めることはできないのです。 そのうち、少女は哀しくなってきました。今の自分には、このマッチの火でさえ、ぬくもりを与えてくれない。そう考えると、涙が溢れて止まりませんでした。 その時、少女の耳に、懐かしく、そして温かい声が聞こえてきました。少女の名を呼ぶその声は、間違いなく、死んだおばあさん。おばあさんは、少女に、とても優しくしてくれたのです。 おばあさんは言いました。 『よく、お聞き。お前の力を信じるんだよ。お前には、秘められた能力(ちから)があるんだ』 その言葉に、少女は、マッチを十本以上、束ね、念じました。そして。 「燃えろ!」 その声を発した途端、その束が、まるで松明(たいまつ)のような炎を宿したのです! 驚いていると、おばあさんが言いました。 『私にも、その能力(ちから)があるんだ。でも、それを恐れた「組織」との戦いに敗れて、命を落とした。いいかい? 奴らに世界を渡しちゃいけない。戦うんだ! ……お父さんに、気をつけるんだよ』 「お父さん? どうして?」 少女の問いに、おばあさんの声が、少しためらってから、答えました。 『あの男は、「組織」の幹部なんだ』 その時、お父さんがやって来ました。
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