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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第29回   エンドウ豆の上に寝たお姫様の物語。2
 ある嵐の夜。
 城門を、しきりに叩く音に、門衛は門越しに声を張り上げて言いました。
「何者だ!?」
 王妃からは、不審者は通すな、と厳命されています。しばらく前、王子の后候補としてやってきた娘、宴席に招いた芸人一座、そして出入り業者の中に不審者がいた、とのことで、城門での身元改めは、正直いって、過剰なものになっていました。それに対し、少々うんざりしていましたが、これも仕事です。そうでなければ、こんな嵐の夜にまで、門衛を務めるなど、「ブラック」もいいところでした。
 門の外から、返答がありました。
「妾(わたし)は、辺境に領地を賜(たまわ)っている貴族、ストランドバリ候ヨアキムの一人娘、マルグリットでございます! 先月、妾(わたし)が病に倒れました折には、王家の皆様から、多大な温情を賜り、そのお礼に、と、こうして馳せ参じました!」
「うむ! 少し待て!」
 門衛は、もう一人の門衛……相方に、確認に走らせました。ストランドバリ候の名も、娘が一人いる、ということも聞いたことはありますが、「マルグリット」という名前や、「先月、病気になっていた」ということまでは知りません。宮内(くない)局の文官なら、事情を知っているはずです。
 しばらくおいて、相方が帰ってきました。
「間違いなく、ストランドバリ候には、マルグリットという娘がいる。先月、お后候補に、と、お召しがあった折り、病気を理由に登城しなかったそうだ。その際、病気見舞いに、紅玉をあしらった銀の髪飾りを下賜(かし)されている」
 それに頷くと、門衛は言いました。
「このような嵐の夜に、なにゆえ、登城なさったか!?」
「街道を、五人の供(とも)を連れておったのでございますが、ある山道で崖崩れがあり、馬車が通れなくなっておりました。回り道をしていたのでは、日数(ひかず)が、かかってしまいます。一日も早く、感謝をお伝えしたく、供の者を一人だけ連れて、歩いて参りました。ですが、途中、嵐になり、その者は、病をえて、今、宿にて伏せっております。なので、せめて妾(わたし)一人でも、と……!」
 相方は、城門の近くに設けられた複数の「のぞき穴」から外を窺い、門衛に言いました。
「外套(がいとう)を羽織った女が一人、いるだけだ。少なくとも、十エル(約四メートル)内には、人影はない」
 どうやら、危険は、なさそうです。この嵐の中、辺境候とはいえ、貴族の者を追い返したとあらば、門衛たちが不敬罪に問われます。ですが、用心の上で、門衛は、城門ではなく、その横に設けられた潜(くぐ)り戸から、娘を招じ入れました。
「失礼だが、王家より賜ったという、髪飾りはお持ちか?」
 確認の必要があります。この娘が本当にストランドバリ候の娘であるなら、髪飾りを持っているはず。持っていなければ、城に侵入しようとした賊(ぞく)として取り押さえれば良いし、抵抗するなら、この場で自由に処断することも許されています。
 頷き、娘は、後ろ髪をまとめていた髪飾りを外しました。紅玉が、門衛のもつ松明の灯(ひ)をうけ、光を放っていました。


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