四半刻(しはんとき)(約三十分)も経った頃でしょうか。 嵐は止んでおり、窓からは月明かりが部屋に差し込んでいます。 そして、扉が開いて、何者かが入ってきました。 「おや? まだ生きているのかい? ……ふうん。あれから四半刻は経つけど、寝返り一つ、打ってないんだ。こりゃあ、本物の『お姫様』かもねえ」 王妃の声でした。 足音が近づいてきます。頭(こうべ)を巡らせると、三エル(約一・二メートル)ほどのところに、燭台を手にした王妃がいます。その表情は、下方からの光線のせいもあって、凄惨なものでした。 明らかに侮蔑するような笑い声を立て、もう片方の手に、髪飾りを持って、王妃が言いました。 「この髪飾り、よくできてるねえ。おそらく本物を盗み、姿形を写し盗り、騒ぎになる前に返して、急いで本物そっくりに作ったんだろうけど。……残念だったねえ。あの田舎貴族にくれてやった髪飾りは、銀そっくりに加工した真鍮(しんちゅう)、紅玉は、ガラス玉なのさ。辺境の田舎者には、それで充分。疑われないように、『本物』を作ったのが、仇(アダ)になったねえ」 そして、髪飾りを床に投げ棄て、笑います。 なんてヤツだろう。こんな下劣なヤツが、この国の王妃とは! あの短い時間で、王族に近づけて、この数年、接触がなく、なおかつ受け入れられるだろう存在を調べ上げ、マルグリット・ストランドバリという、辺境貴族の娘を突き止めました。その娘に近づけるよう、見た目、口調、声音(こわね)、そして知識や技芸の程度までも、可能な範囲で調べました。探索に要する時間内だけ、ごまかすだけでいいのですが、どこでボロが出るか分かりませんし、警戒厳重となっていれば、最大限の用心が必要です。 「それだけじゃない。お前を疑った一番の理由。それはねえ?」 と、王妃が、一層、凄まじい笑みを浮かべます。 「あの娘が、まだ十四の頃。一度、ここに来たことがある。その時、王子が娘のことを気に入ったんだ。で、一応、『売約済み』にしておきたくてねえ。娘の帰り際に、『売約済み』の焼き印を、王家の紋章が入ったコテで押しといたのさ、娘の顎の下に! このことは、私と、ストランドバリの田舎者どもしか知らないのさ」 そう言って、王妃は自分の手で、自身の首をさする仕草をしました。そういえば、調査報告に、娘は、首にストールを常時、巻いている、というのがありました。単なるオシャレであり、巻いていないこともあるだろうと思い、気にもとめなかったのです。 つくづく、この王妃は外道です。そんなキズモノ、王子や王族はおろか、他の貴族も相手には、しないでしょう。 「この間から、妙なネズミがうろついているからねえ、この『特別室』に案内したんだけど。……そのベッドに気づいてるようだねえ? となると、やっぱり『姫』なんかじゃなく……」 アルフリーダが感じた、ベッドの下の異物。それは。
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