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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第24回   エンドウ豆の上に寝たお姫様の物語。4
「夜も遅く、嵐もやまないから」ということで、娘には、貴賓(きひん)室の一つが、寝室としてあてがわれました。おそらく王家の親族か、他国の王族か、そのぐらいのものでないと、中を覗くことさえ叶わないような、豪華な部屋です。とても「辺境の一貴族」の者が逗留(とうりゅう)できるようなものではありません。
 いったい、いかなる思惑があって、王妃はこの部屋に娘を泊めたのか。
 訝しく思いながら、娘……アルフリーダは貴賓室の一角に設けられた浴室へと行きました。王家の侍女たちによって、適温の湯が湯船に張られており、季節の花が浮かべられています。その香(か)をかぎながら、娘は、念のため、部屋の中を確認しました。豪華な調度品、流行画家の手になるものと思しき絵画。成金趣味と言ってしまえばそれまでですが、遠来の賓客をもてなすのには、失礼のない部屋です。
 燭台(しょくだい)の一つを手に取り、壁や床を、可能な限り、点検(チェック)します。もっとも、ロウソクによる、心もとない光では、充分な点検(チェック)はできませんが、とりあえず、どこかに隠し扉のようなものは見つかりません。となれば、この部屋に入るためには、扉か窓か。そこにさえ、注意していれば、急襲にも対応できるでしょう。

 湯浴みを終え、娘は部屋の中央に置かれた、天蓋(てんがい)や、周囲を囲うカーテン付きの寝台(ベッド)を点検(チェック)しました。
 貴賓室のものにふさわしく、まるで雲の上のように、フワフワです。ともすれば、地上にいることを忘れてしまうでしょう。その感触に、思わず心の中に高揚感が生まれました。
 思えば、小さい頃から過酷な環境でした。様々な言葉や、同じ言葉でも地方差による違い、礼儀作法、そして暗殺術。様々な知識、技術をたたき込まれました。寝具はワラを詰めたシーツがあればいい方で、冷たい石畳や、板張りの床の上で、シーツ一枚で身をくるむことも、珍しくありませんでした。
 ある程度、単独でのミッションをこなせるようになってから、雨風しのぐ場所や食事は多少、マシになりましたが、生活水準は、庶民よりも「下」でした。
 組織の「上」に上がれば、いい暮らしができる。それを励みに、時に身を売り、時に死に瀕しながら、アルフリーダ……いえ、エージェントたちは頑張っているのです。
 ちょっとだけ。ほんの一時(いっとき)だけなら、「お姫様気分」を味わっても、罰(バチ)は当たるまい。
 任務を忘れ、アルフリーダはベッドに身を横たえました。
 かつて北方へ探索任務で行ったときに、新雪の上を歩いたことがあるのですが。
 あの時のように、どこまでも自分を受け入れ、包み込んでくれるような柔らかさが、アルフリーダを包みます。その感覚に夢見心地になった時です。
「……これは!」
 ふと、王妃が王子に言った言葉が、甦ります。読唇(どくしん)術で、ある程度、王妃が小声で言ったことはわかりました。
「『本物の姫』かどうか、確かめるために、ベッドに何かを仕込む」
 そんな事を言ったように見えました。
 実際、沈み込んだ体が、ベッドに仕込まれた異物を感知したのです。
 しかし、まさか!


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