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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第21回   エンドウ豆の上に寝たお姫様の物語。1
 昔々、ある村のはずれに、一人の少女が、たった一人で住んでいました。残念ながら、彼女の名前は、今に伝わっていません。なので、仮に「アルフリーダ」としておきます。
 ある朝のこと。家の前で、口笛が聞こえました。
 出てみると、そこにいたのは、若い男。もちろん、アルフリーダは、その男を知っています。
 男は言いました。
「おはよう、アルフリーダくん。さっそくだが、ミッションを伝えよう。東に十五日、歩いた先にある王都、そこに住む王族は、不正をはたらいている可能性がある。それを突き止め、証拠を手に入れて欲しい。……今回は、特別に、一つだけ、質問を許可する」
 その言葉に、アルフリーダの体に緊張が走ります。「組織」がミッションについて質問を許すなど、余程のことです。ということは、それなりに厳しい内容である、ということ。
 アルフリーダは考え……といっても、数秒程度の「圧縮思考」でしたが……、言いました。
「『前任者たち』は、どうしましたか?」
「どうなったか」ではなく、あえて「どうしたか」と、聞きました。
 三呼吸ほどおいて、男は答えました。
「敵の手に落ちた者を、組織は助けないし、まして、裏切り者は許さない」
 これで充分でした。
 少しだけ、不思議な空気が男から流れてきました。よく見ると、男の顔には「表情」が浮かんでいます。男は、少しだけ眉を動かして、言いました。
「これは、私の独り言だ。……あの王族の王子は今、后、つまり未来の王妃を求めている。最初に選んだ娘は、残念ながら、死んでしまった。死んだ理由については『わからない』。その後、貴族の娘から平民の娘まで、いろいろと『見繕った』ようだが、いずれも選ばれなかった。どうやら、王妃……母親の、娘たちを見る『目』が厳しいものになったらしい。そのせいか、外部から入る者や、出入り業者に対するチェックも厳しいものになっている」
 つまり、潜入調査のハードルが、これまでアルフリーダが請け負った任務のどれよりも、高いことを意味しているようです。
「そして」
 と、男の目が少しだけ、険しいものになります。
「王城近くの市場(いちば)では、猛獣のエサ用に、豚以外の正体不明の肉も、売り買いされていたことがあるらしい。流出元は……」
 ちょっとだけためらうような息づかいの後、男は言いました。
「王城だそうだ」
 そして、男は去って行きました。

 アルフリーダは屋内に戻り、プランを練り始めました。
 お后候補だけでなく、外部業者でさえ、おそらく新顔であれば入城は制限される、そんな状況なのでしょう。
「となれば……」
 アルフリーダは必要なものを手紙にしたため、鳩の足にくくりつけて、本部へと、飛ばしました。
 数日後。道中の宿場町で、それらを調達する、その手はずを整え、アルフリーダは王都へと、旅立ちました。


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