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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第2回   ジャックと豆の木の物語。後編
 それからのひとときは、ジャックにとって初めての夢心地、そして高揚感の時間でした。
 終わったとき、女は言いました。
「たまには、身分の卑しい男に、無理矢理『される』というのも、いいものねえ」
 満足げに言うと、女はジャックに金貨を三枚、渡して言いました。
「また、明日もおいでなさい。そうしたら、また、お金を恵んであげる」
 ジャックに異存はありませんでした。

 それから毎日、ジャックは女のもとに通いました。女からもらった小遣いでたくさんのニワトリを買い、ニワトリが産む卵を市場で売るようになりましたし、卵を産まなくなったニワトリを、ジャックと母とで食べるぐらいの余裕もできました。
 しかし、その日は、少し様子が違いました。
 いつものように行為をしていると、女が感極まったのか、高い声を上げたのです。その声は、まるで楽士が奏でるハープの音色のようです。その次の瞬間。
「なんだ! 何をしている!?」
 野太い声が、階下から聞こえてきました。
「しまった! 亭主が帰ってきた!」
 あわてて、女が起き上がります。訳がわからないでいるジャックに、女が言いました。
「わたしとしたことが、あんたみたいな下賤(げせん)の坊やに情が移るなんてね。ほんのお遊びのつもりだったのに……。さあ、早くお逃げ! 亭主は、きっとあんたを殺しちまう!」
 殺される、という言葉に、ジャックも頭から血が引く思いでした。急いで、シーツの紐を伝って下へおります。ジャックが石畳の通りに脚をついたとき。
「小僧! そこを動くな!」
 凄まじい形相(ぎょうそう)の大男が、こちらを睨むのが見えました。そして、何を思ったのか、大男が紐を伝って、滑り降り始めました。
 まずい! 早くここから逃げないと!
 ジャックがそう思った瞬間!
 大男が突然、落下しました。そして、頭から地面に激突したのです。
 紐から手が離れていないことは、大男の両手の中に緑色の紐があることでわかります。ということは……。
 ジャックは四階の窓を見上げました。
 女が、片手にナイフ、片手に緑色の紐を握っています。その紐は、女の手にある部分から、切断されていました。
 大男が小刻みに震え、何か、言いました。それは、あの女の名前のようでしたが、近くにいたジャックにも、はっきりと聞き取れませんでした。
 そして、大男は、それきり動かなくなってしまいました。
 女は、それを見て。
 冷たく笑っていました。その目にあるのは、常軌を逸した光。
 まるで、割れた頭から赤い血を噴き出して倒れている、大男の姿に、何らかの愉悦を感じているかのような。
 その微笑みのまま、女がこっちを見たとき。
 心の底から恐怖を感じたジャックは、その場から一目散に逃げ出しました。

 その後、彼らがどうなったのか、歴史は語ってくれません。
 ただ、一部の伝承で、ジャックはその後しばらく、畑を耕す生活を送ったらしい、と伝わるのみです。


(ジャックと豆の木の物語。・了)


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