謁見の間に引き出されたエレオノーラは、後ろ手に縛られています。 王妃が玉座で、衛兵から古書と短剣を受け取りながら言いました。 「この間、侍女として雇い入れた娘が、『これ』に気がついてねえ。だから、わざと目立たない倉庫にしまい込んどいたんだけど、まさか、アンタがこれを見つけるとは……。あんたといい、あの侍女の娘といい、パーティーにやってきた楽士といい、一体何者なのか、聞かないとならないねえ」 どうやら、シンデレラ以外にも潜入した者がいたのは、確かなようです。 「さあ、お言い。あんた、何者だい?」 「……」 答えるわけはありません。言葉の代わりに、王妃を睨んでやります。 王妃が鼻で嗤います。 「まあ、いいさ。それなら、体に聞いてみようじゃないか。この間の侍女は、荒くれの変態男をあてがってやったら、十周目で『白状する』なんて言ってたねえ。でも、その次の日の朝、あの娘は死んでた。シンデレラと同じ死に方だったよ。……温情で、見張りつきだったとはいえ、裏庭の散歩を許したのが、まずかったかねえ」 ちょっと苦い表情をしましたが、すぐに王妃は背筋が冷えるような笑いを顔に貼りつけました。 「お前は、何人で音を上げるか、楽しみだ。『荒くれ』の中には、面白いヤツもいてねえ。この間の侍女の娘も、同じ目に遭っていたよ?」 どんな目に遭わされるか、不安な思いが顔に出たのでしょう、王妃が言いました。 「なあに、なんていうことはない。何本『入るか』、試すのさ。太さをかえ長さをかえ、材質をかえ」 まるで悪魔のような王妃の笑みを見ていると、自然と、吐き気がこみ上げます。 その時、足音が近づいてきました。見ると、そこには王子。 「何か騒がしいと思ってきてみたら……。義母上(ははうえ)、これは一体……?」 驚いた声と表情で王子がこちらを見ます。王妃はただ、 「王子、お前には関係ない。もう夜も遅い、さっさとお休み」 とだけ言いました。 「ですが、これは……」 「王子!」 王妃のキツい声に、王子はまた感情のない瞳になって言いました。 「わかりました、義母上」 そして、一度、エレオノーラを見ます。その死んだ瞳を見ると、エレオノーラは思わず口を開いていました。 「なんだよ、その死んだ目は。夢を語っていたときの、あの輝きはどこへ行ったんだよ?」 衛兵が制するのを無視して、エレオノーラは言います。 「私に言ってたろ、この国の経済をなんとかしたいって! 好きなコがいるって! あの時の情熱は、本物だった! 今のアンタはニセ物だ! 夢を語っていたアンタは、どこへ行ったんだ!」 「……君が何を言ってるのか、わからないけど、僕がしなければならないのは、早く義母上の認めるお后を見つけて、義母上に従って、この国を継ぐこと、それだけなんだ。それ以外、何もすることはない」 「何言ってんだよ! そんなのは、お前じゃない、違う人間の価値観だ!! お仕着せだ!! そんな服なんか、脱いじまえッ!!」 そして、渾身の力を込めて叫びました。 「裸になれ、王子!! ホントの自分を、さらけ出せッ!!」 しかし、王子の瞳に、輝きは戻りませんでした。
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