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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第16回   裸の王様の物語。5
 わけのわからない考えの連続です。
「簡単にいうと、紙で作ったお金だ。もちろん、これ自体には価値はない。でも、その都市の領主が『金貨十枚分の価値がある』と裏書きすることで、その紙は、金貨十枚と同じ価値を持つことが出来る。そうすれば、その紙で、買い物が出来る。そうなれば、都市内での金貨や銀貨の量を保てて、他の都市や他国との交易もスムーズに行える。でもね? これは、それだけの価値を維持できて、はじめて有効なんだ。だから、もし何らかの事情で、その都市の産業がうまくいかなくなって、……例えば物が、他の都市で売れなくなって、物流や経済が破綻してしまったら、すべての都市紙幣はただの紙くずになる。貨幣が都市に入ってこなくなるからね」
「ヤバいシロモノなんですねえ」
 正直言って、訳のわからない話なので、エレオノーラは適当に相づちを打っておきました。
「うん。とても危うい。だから、僕はそれをもっと改良できないか、って思ってる。具体的にどう、というのは、まだわからないけど。でも、今のままだと、ある村では金貨三枚と牛二頭が同じなのに、ある都市では牛が四頭になってしまう、なんてことになりかねない。そうなると、牛を売る側にとっては、大損だ。仕入れ額は変わらないのに、売るときには、同じ値段で数多く売ることになるんだからね。すると、ますます金貨自体の価値が上がったり、物流が偏っていって、おかしな事になる。だから、都市紙幣を作って、金貨の価値を一定に保とう、ってことなんだろうけど」
 そして、夜空を見上げます、
「それだけじゃなく、僕は他国との間に、ある種の通貨協定を結びたいと思ってる」
「……なんですか、それ?」
 はっきり言って、どうでもいい話だったのですが、相手は王子、適当にあしらうわけにもいかず。それに、早く話を終わらせないと、探索が出来ませんし。
 王子はちょっとだけ苦笑いを浮かべて言いました。
「喩え話にするよ? ある国とお金を交換するときに、たとえば我が国の銀貨百枚と、他国の金貨一枚が同じだとする。その時、その国から金貨十枚借りるには、こちらが銀貨千枚を返すことを約束しないとならない。でも、もし国力が変わって、我が国の銀貨百五十枚と、向こうの金貨一枚が同じになってしまったら? 借りるときは千枚でよかったのに、返すときには五百枚増やさないとならない。それじゃあ、とてもたいへんだ。だから、そういうことにならないように、お金の貸し借りをするときには、兌換率は同じにしよう、っていう約束をとりつけられないか、って考えてる」
 ちんぷんかんぷんでした。でも、その話をしているときの王子の瞳は、輝いています。
「素敵ですよ、夢をお話しになるときの王子様」
「ありがとう。実は、しばらく先で、僕は海を越えた島にある国に、旅行に行くことになっているんだ。その国ではね、今言った、兌換率の固定や都市紙幣の流通を進めているっていう。僕は、そこで勉強してきたいと思ってるんだ」
 そう言った王子でしたが、不意にその瞳から輝きが失せました。いったいどうしたことか、と思っていたら。
「でもね? 今、僕がするべきことは、早くお后を見つけて父上と義母上(ははうえ)を安心させること」
「……王子?」
 首を傾げた時。
「僕は、第一に、この国の王子なんだ」
「……そうですか。だから、お后候補を。好きな方とかは、いらっしゃらないのですか?」
 言ってから、また馬鹿なことを聞いたと思いました。相手は王族、恋愛に自由など、ないに決まっています。ですが、再び瞳に「色」が戻って、王子は言いました。
「以前、出会った女の子がいたんだ。ある侯爵の令嬢で。でも、その侯爵は不手際をやったそうで、十年前に、義母上に辺境へと放逐されている。おそらく、その令嬢とのことは、義母上が許さないさ」
 まったく感情のこもらない声と表情でそう言うと、王子は城の中へと帰って行きました。


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