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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第15回   裸の王様の物語。4
 採寸も終わり、王子のオーダーをまとめ、その夜はエレオノーラは王城に宿泊することになりました。わざと時間を掛けたこともありますが、王城にいる女官たちの服も仕立てることになっているので、いつも宿泊することになっているそうです。
 一通り仕事を終え、残りの女官たちは、翌日に回すことにして、エレオノーラは探索を開始することにしました。しかし。
「おや、エレオノーラ?」
 まずは、万が一の逃走用に、外回りの確認をしようとして庭に出たとき、そこで月を眺めている王子と、ばったり出くわしてしまいました。
 ンだよ、「坊ちゃん」は夜更かししてないで、とっととベッドに入ってろよ!……とは思いましたが、それを、やっぱりおくびにも出さず、エレオノーラは言いました。
「王子様、いかがなさいましたか、このような夜更けに?」
「……月が綺麗だったから。君は?」
「私もですわ」
 んなわけねえだろ! とは思うのですが、もちろん、そんな思い、おくびにも(以下略)。
 なんとなく二人して月を眺めていると、ふと、エレオノーラは王子の横顔に、王族の者とは違う「何か」を感じました。それが何か知りたくて、思わず、エレオノーラは聞いてしまいました。
「王子様は、何か、夢がおありですか?」
 一瞬、しまった、とは思いましたが、口から出た言葉は戻せません。なぜこんな馬鹿な問いを発したのか、自分でも不可解に思いましたが、それでも王子の口から答を聞きたく思いました。
「夢?」
 エレオノーラを見て、そう言い、少し考え、王子はもう一度「夢……」と呟いてから、またエレオノーラを見ました。
「君は、この国の経済を、どう、思う?」
「え? 経済、ですか?」
 いきなり訳のわからない言葉に戸惑っていると、王子は、苦笑いを浮かべて言いました。
「脅威だった北の国は弱体化し、こちらに有利な条件で平和条約を結んで、もう十年以上が経つ。西の隣国との関係は今のところ、良好だ。東の国と、海を越えた先の大陸にある、一部の国とは、緊張は残っているけど、今すぐ戦になる、なんてことはない。となると」
 そして、地面の芝生を見ます。
「経済……国力の充実が急務になる。今、この国は平和に馴(な)れていて、どこか緩んでしまっている。だから、恥ずかしいことだけど、王家を初めとする貴族たちの間の経済観念が狂ってしまってるんだ」
 寂しげな、あるいは悲しげな表情になって、王子は顔を上げました。
「今、国内の通貨は、著しく均衡を欠いている。都市と村、コミューンの間だけでなく、都市間でも、不均衡が発生してしまってるんだ。そのバランスを調整するために、一部の都市では、都市紙幣も発行されている」
「……なんですか、それ?」


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