王城では、王子のお后候補を見つけるための、パーティーが開かれるとのことでした。慣例としては、王家の親族あるいは姻族である公爵家から選ばれるのですが、王妃の意向により、この国の建国時に功績のあった者の子孫である、侯爵家及び、伯爵家からも候補を見つけるようにしていました。それだけでなく、市井からも募るようにさえ、なっていました。 現在、国の実権は半ば王妃が握っており、王子のお后選びも、王妃の手に委ねられていたのです。王妃がなぜ、平民からもお后候補を選ぶようになったのかは、当の王妃が何も言わないので、謎となっていました。 「君が、代わりの仕立屋だね?」 王子の言葉に、エレオノーラは恭しく頭を下げます。 「そうか。……いつもの、……何といったかな……、ええと?」 と、王子がエレオノーラを見ます。 すぐにエレオノーラは返答します。 「カルロッテ、ですわ、王子様」 「そうそう、カルロッテ。彼女、どうしたのかな?」 このやりとりで、エレオノーラは直感しました。 この王子は、いつもと違う者がやってきたことに、何らかの警戒感を抱いている。だから、このように「確認」をしているのだろう。となると、二重三重にこのようなチェックが用意してあるに違いない。そして、その理由は、シンデレラの「不審死」にあるのだろう。 そう思いながら、エレオノーラは言いました。 「昨日の夜、宿舎の階段を踏み外して転げ落ちて、手を怪我してしまったのです」 ここで、カルロッテの所属する服飾組合には宿舎があり、その建物が少なくとも、二階建て以上であることを言葉に出します。ですが、この程度なら、外部の者でも知りうる、組合の事情です。 王子は、「次なる」ことを聞いてきました。 「そうか。ところで、カルロッテの妹さんは、あれから、どうなったかな? ちょっと気になってるんだ」 なるほど、かなり突っ込んだことを聞いてきたか。そう思いながら、エレオノーラは答えました。 「失礼ながら王子様。カルロッテには妹はおりません。弟の間違いではございませんか?」 「あれ? そうだったかな?」 と、王子は首を傾げます。それがどこか白々しくはありましたが、そんな感想をおくびにも出さず、エレオノーラは言いました。 「ええ、弟です。テオドル、今年で十七になりますわ。……私が聞いているのは、ラーゲルフェルト公の自治領にある、学士院へ、遊学に行きたい、とか。どうやら、歴史学者になりたいという熱意は、一過性のものではないようです」 その言葉に、王子は「そうか」と、満足げに微笑んで頷きます。 どうやら、この王子は、なかなかに聡明なようです。エレオノーラは、「どうせボンボンだろう」と、先入観を持っていたことを、恥じました。詳細な情報を聞いておいてよかった、とも思いました。エージェントの中に、情報分析・解析のエキスパートがおり、その者が調べ上げたことだそうです。メッセージを伝えてくる若い男からいろいろと聞かされたときは、「何もそこまで」と思いましたが、今は「これで充分だろうか」という不安さえ、胸の中に生まれていました。 ですが、幸いにして王子の警戒は解けたらしく、その後は、服についてのオーダーや説明など、普通の会話になっていきました。
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