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作品名:歪で歪んだ物語。 作者:ジン 竜珠

第130回   歪で歪んだ物語。16
 すると、不意にジャックが言いました。
「やれやれ、復讐ごっこですか」
 王妃の顔が強ばり、次には睨み殺そうとせんばかりの顔で、ジャックを睨みます。
「……ごっこ、だってぇ?」
「ええ、復讐ごっこ、です。そんなことする気なんか、ないくせに」
 冷ややかに笑うジャックに対し、王妃が激高しました。
「ふざけるんじゃないよ! 私は、復讐の時を狙ってたんだ!」
「じゃあ、なぜ王妃の地位に就いたとき、すぐにヨアキム様やマルグリット嬢に復讐しなかったんですか?」
 空気が一瞬で凍りました。王妃も、その表情が凍っています。
「それだけじゃない。なぜ、同胞を十五年も放っているんですかねえ? おかしくないですか?」
 眼鏡のブリッジを押し上げ、ジャックは続けます。
「復讐とか言いながら、あなたが実際にやっていたことは、なんですか? 毎晩のように乱痴気騒ぎをやらかしていただけでしょう? 結局、あなたは権力を手にした瞬間、それに溺れてしまったんだッ!」
 その時、続きの間から人影が現れました。それを見て、ジャックが微笑みました。
「ご苦労様でした、ジェニファー」
 ジェニファーと呼ばれた少女が、ニカッと笑って右手の親指を、突き立てます。
「ジェニファー?」
 呟いて、ヨアキムは、白手袋の少女を見ました。もしかして、シュヴァルベというのは、偽名だったのでしょうか?
 そして、その後ろから現れたのは。
「……マルグリット!!」
 王子に支えながら立っている、マルグリットでした。何があったのかわかりませんが、すっかりやつれ、痛々しい限りです。でも、命は無事だったのです。嬉しさがこみ上げ、駆け寄りました。抱きとめると、マルグリットは、弱々しい笑顔と声で、「お父様……」とだけ言い、体を預けてきました。
 王子が厳しい表情になって言いました。
「義母上! 僕は……。私は、もう、あなたのいいなりには、ならない! あなたのように、この国の『形』に思いを致さないような人間に、政(まつりごと)は、まかせられない!」
 王妃が、歯がみをします。その時でした。
 正面の扉が荒々しく、開け放たれました。そして、衛兵が数人、まるで「物」を投げ込まれたかのように、転がり込んできます。そして現れたのは。
「エーケンダール伯?」
 ヨアキムの言葉に、ひげ面の巨漢、エーケンダール伯カールが頷きます。
「いやあ、王妃さん。あんた、悪魔召喚とか、やってたんだなあ。ジャックに証拠……ブレンバリ候が持ってた物、見せられてよう。いくらなんでも、ヤバいだろう。近いうちに、教皇軍が、教会法、ひっさげてやってくるぜ? 覚悟、決めるんだな」
 と、愉快そうに、そして、豪快に笑います。
 王妃が体を震わせます。怒りによるものか、戦慄によるものか、わかりません。しかし、ふと邪悪な笑いを浮かべて言いました。
「お忘れかい? 私は悪魔が喚べるんだよ?」
 空気が凍ります。
「悪魔の力を使って、前の王妃を呪い殺し、王に取り入ったんだ。この場でお前らを取り殺すぐらい、わけないのさ。そっちこそ、覚悟するんだねえ?」
 騎士たちが、慌てふためいたかのように、ざわめいています。カールも厳しい表情になっています。ですが、ジャックは相変わらず、シニカルな笑みを浮かべています。
「あなたに、悪魔召喚なんて、できません。あなたがやってきたのは、薬物と催眠術による誘導、それから、毒物による暗殺です。それに悪魔召喚とか、そんなことしなくても」
 ジャックが険しい目つきになって言いました。
「あなた自身が、充分、悪魔じゃないですか」


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